僕ハ君ナシデ (ページ17)

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「ただいまー」

「おっそいな、宏光～、おかえり」

あの後どうやってここまで来たかは覚えていない。ただフラフラと歩いて帰ってきたはず。

俺を抱きしめた忠くんが少し悲しそうな顔をしたのは見えないふりをした。

「宏光～腹減ったやろ？飯作ったで～」

「おー、ありがと。」

忠くんと向き合って椅子にかけては「いただきます」と手を合わせ、作ってくれた料理を口に運ぶ。

「・・・」

「宏光、なんかあったんか？事務所に呼ばれたの、何やったん？」

「藤ヶ谷が、撮られた。」

「・・・宏光はどうしたいん？」

「・・・悪い。とりあえず明日から、自分の家帰る。」

「そっか、とりあえず今日はご飯食べたら、寝ようか」

「ごめん」

謝らんでええよ、と頭を撫でられ、忠くんは食器を洗うためにキッチンに移動した。

寝室に入り、漂う甘い匂いに、藤ヶ谷との行為が蘇る。
先に寝転んでいると、「ヒーローミーツ」と少し陽気なテンションで隣に寝転がる忠くん。
ぎゅーっと抱きしめては、「今日が最後やな」と小さく呟いた。
何も言葉を返せなくて、抱きしめると、ニコッと笑って「幸せになりや？」と付け足す。

「ごめん」

「なんかあったら、またおいで」

さらに強く抱きしめられた腕からは忠くんの愛情がダイレクトに伝わった。
いつの間にかスヤスヤと眠る忠くんの頭を撫で「ごめん」とだけ呟いてその日は俺も眠りについた。

＋＋＋

「んじゃ、またな！あ、この恩は、うまい店でええから！」

最後の最後まで忠くんに甘えてしまう。

「ありがとう、おう！まかせてよ。」

お互いに手を振り、忠くんの家を後にした。

そう遠くない家だが、タクシーを呼んで家に帰る。

久しぶりの家に、これが自分の匂いなんだとわかるくらいに
自分を纏う匂いが甘ったるい。

ピコン

「今何してる？」

”藤ヶ谷”と表示された文字に、胸が高鳴る。
その一言だけで、自分の存在が認められたかのように。

きっと、求めてるのは、俺、ではなくて、俺の体。

それでもいいんだ。

また、あの優しい声で俺を呼んでくれるなら。藤ヶ谷が女を抱かずに済むなら。

一度の関係が、自分で提案したことが、俺の愛を歪ませた。

寂しい夜ならば忘れさせてあげるよ