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静かに襖を開けた。
真新しい制御剤の匂いが鼻につく。
ここは、紺炉の自室。
葵は紺炉を起こさないように、静かに身体を横にする。
お兄が、また発火能力を使た事は知っている。
それで、梯子から落ちたことも知ってる。
畳に頭を預け、擦り傷の残る顔を眺めた。
こんな傷、大事に至らないことは分かってる。
でも、心配の種は少しでも減らしたい。
葵は紺炉を起こさないように
そっと指先で傷をなぞる。
そうすれば、綺麗に傷が消える。
コレも消えればいいのにと、一番大きな傷に手を伸ばした。
その時、紺炉の瞼が揺れた。
起き抜けの擦れた声が鼓膜を擽る。
しまった…
起こすつもりはなかった。
葵は身体を起こし、少し距離を放す。
しかし、紺炉の手はそれを許さない。
離れていく手首を簡単に振りほどける力で握り
もう一度、葵を寝かす。
「おかえり…」
『ただいま』
「随分と遅かったな?
また迷子にでもなってたか」
こういう時でも冗談を言ってくれる兄が好きだ。
黒が引いていくのが分かる。
五月蠅かった海が凪いでいく。
はにかむ様に笑って、違うと伝える葵。
手首を包んでいた大きな手が、頬を撫でる。
頬から、髪へと大きな手は移動していく。
その手でもと触れて欲しくて
強請る様に手にすり寄った。
「随分今日は、甘えただな」
そう言って、布団に招いてくれた。
布団の中は温かくて
お兄が、ちゃんと生きている事を証明してくれる。
それなのに、大っ嫌いな灰の匂いがする。
必死に兄の匂いを探すが
やはり灰の匂いしかしない。
それが悲しくて、泣きそうになる。
葵は胸元に顔をうずめ、大きな背中に腕を回した。
紺炉は子供だなと笑うと、優しく背中を叩いた。
“牡丹に唐獅子” という言葉がある。
獅子は百獣に君臨する王で、無敵の強さを誇る。
しかし、一つだけ恐れるものがあった。
それは、己が身に巣い、やがて皮を破る害虫だ。
しかし、この害虫は牡丹の花から
滴り落ちる夜露で死んでしまう。
だから、獅子は牡丹の下でのみ休む。
貴方の依所は何ですか?
貴方が安心して身を寄せられる
安住の地はどこにありますか?
これが、牡丹と唐獅子に込められたメッセージだ
獅子にとっての安住の地が牡丹の下の様に
私の帰る場所はここなのだ
指先がまだ痙攣している。
どうか、気づかれませんようにと願う。
昔の様に、背中を優しく叩かれれば意識が遠のいて行く。
そして、薄れゆく意識の中、懐かしい匂いがした。
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たんぱく質(プロフ) - なっちんさん» 長文になってしまい、大変申し訳ありません。以下が、この作品に設けた私なり定義です。なっちゃん様や他の読者様には、ご不便をお掛けしますが、なにとぞご容赦を頂ければと。 (2020年7月12日 8時) (
レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
たんぱく質(プロフ) - なっちんさん» 2つ目は、私個人の思い入れです。葵とは、太陽向かって成長する植物です。漢字自体も太陽と関わり深く、それで紅丸との関係性を表現しています。また、紺炉と紅丸の名前に色が含まれており、設定上紺と同系色の響きのある名前でイメージを統一する必要があったからです (2020年7月12日 8時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
たんぱく質(プロフ) - なっちんさん» 1つ目は、物語の雰囲気を優先したからです。薄々とは感じて頂いていると思いますが、この3人の関係にはウェイトを置いていて書いております。その為、名前というキャラクター構成の要となる部分が不確定だと、物語を引き締められないと判断し、使用しない事にしたのです (2020年7月12日 8時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
たんぱく質(プロフ) - なっちんさん» コメントありがとうございます。名前の変更はコレを書くと決めた時に、熟考を重ね、しないと決めたので、大変申し訳ないのですが致しかねます。長文になりますが、名前変更をしなかった理由は2つあります。 (2020年7月12日 8時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
なっちん(プロフ) - 初めまして^^*お話とても好きです∩ω<`あの名前の変換はできないのでしょうか(;o;)?? (2020年7月12日 7時) (携帯から) (レス) id: 86e7fd8910 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たんぱく質 | 作成日時：2020年7月8日 21時
