【炎炎】第7の日常 弐

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意志が浮上していく。
薄目を開ければ、久方ぶりの天井が。
アレからどれくらい時間が経ったのだろか。
時計を確認する為、視線を部屋中に回す。

そうすれば、ボロボロの紅丸に止まる。
俯いていて、顔は見えない。
しかし、いつもは太々しい、俺様な大隊長が小さく見える。


『…若、泣いてるの?』


冗談交じりの葵の声に反応した紅丸が、顔を上げる。
その目には涙はなかった。
ただ、途方に切れた迷子の顔がいる。

迷子になるのはいつも私だろうにと、思う。
しかし、何処か安堵した様にも見える。
言葉で現すには少し難しい顔に、素直な感想を贈る。


『ボロボロだね』

「……誰のせいだと思ってるんだ?」


どうやら、憎まれ口は健在のようだ。
その姿に何処か安心する自分がいる。
身体を起こそうとするが、激痛が走る。
それもそうだ。
あれだけの戦闘をして、日輪をもろに食らったんだ。
起きられないのも無理ない。
仕方がないので、葵はまた枕に頭を預けた。

痛む身体が鉛の様だというのに
気持ちは羽根の様に軽い。
あれだけ五月蠅かった波音も、今は聞こえない。
しつこく纏わりついてきた黒泥もない。

清々しいとはこういう事を指すのだと思う。


「何であんな事した…」


怒ったような、呆れたような声を発する紅丸。
見下ろす紅丸から視線を外し、天井を見上げた。


『………あれ以外何も思いつかなかったの』



あの時本当は、泣きたかったもだろうか?

怒りたかったのだろうか?

終わった後ですら、分からない。
あの時、どうするのが正しかったのか分からない。


ただ、苦しくて

辛くて


どうしようもなくって


「で、俺に喧嘩吹っ掛けたってか?」

『まぁ、そんな感じ』

「お前って案外脳筋だな」

『破壊大魔神よりマシよ』

「なんだと」


紅丸がふざけて覆いかぶさってくるので
腕を突っ張って抵抗する。
が、腕にはほとんど力が入らない。

先の戦闘で身体を動かす為の熱さえも使ってしまい、
今は口を動かすのがやっとなのだ。
だから、紅丸の重さを支えることができずに
鎖骨のあたりに、丸い頭が落ちてくるのを受け入れるしかない。

首に黒い髪が掛かる。
触れ合う肌から熱が伝わる。



あぁ、この人はこんなにも温かいんだな…



瞼を閉じれば、冷え切った体に熱が馴染んでいった。

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