60:やり直し ページ10
「あの、樹、その「Aは悪くねぇから、」
「え、」
「Aは自分のせいだって思って謝ろうとしてんだったら、それは違うから」
「樹、ごめんなさい。私、何も知らないで…」
「いいんだよ、お前が知る必要なんかなかったし…ちゃんと穏便に上手くやれなかった俺が全部悪い」
だから、謝んないで、なんて言う樹は苦しそうだった。
「ごめん、お前のこと裏切って、傷つけて」
謝ってもどうしようもねぇよな、って吐き出す樹。
その言葉のひとつひとつに胸が痛む。
樹は私を守るために嘘をついたのに。
私と一緒にいれるようにどうにかしようと頑張ってくれていたのに。
なのに、私は、そんな樹に縋ることもせず、自分だけが被害者で、可哀想な存在だって思いながら過ごしていた。
「なぁ、A、」
樹が顔をあげ、こちらを見つめる。
真っ直ぐに向けられたその瞳には、はっきりと私の姿が捉えられていた。
「お前のこと傷つけたのは、よく分かってる。自分勝手なこと言ってるのも分かってる。でも、それを承知の上で、言わせて」
樹の目に力が入る。
少し濃くなる目のシワ。それは、苦しい助けてって言ってるみたいだ。
「やり直せねぇかな、俺たち」
樹が言った言葉は、真っ直ぐに私のほうへと飛び込んできた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時