85:遭遇 ページ35
結局、京本の誘いを振り切ることが出来ず、重い足取りで店の扉を開ける。
「いらっしゃいませー」
いつもと同じ慎太郎の元気な声にホッとしたのも束の間。
私と私の隣に立つ京本の姿を見ると何やら言いたげな笑みを浮かべる慎太郎さんに急激に居心地が悪くなる。
案内されたカウンター席に京本と並んで座る。
入り口からは多少離れてるし、位置的にガッツリ見えるわけじゃないけど、でも松村さんがもし仮に来たとしたら絶対視界には入るじゃん、これ。
まぁそんなタイミング良く松村さんも来ないだろうけど。
メニューを眺めながら「これうまそう」とかなんとか言ってる呑気に言ってる京本の奥に見える入り口が気になり過ぎてチラチラ見ちゃうし。
誤魔化すようにビールを飲んでみたりするけど、全然落ち着かない。
「なぁ、そんな見られるとさすがに恥ずかしいんだけど」
「べ、っつに京本のことは見てない」
「へぇー？」
こてん、と首を傾げた京本がこちらを向いてちょっとだけ意地悪な顔して微笑む。
目が合うと、やっぱり無理。
だってこの人、私のこと好きなんでしょ、それでこんな近くで、こんな顔されるとか。
…恥ずかしさに耐えられない。
「そ、そういえば、京本あれどうなったの？でかいプロジェクトやるんでしょ」
「わかりやすく動揺すんなよ」
そう言いながらも京本は「あれは〜」なんて話をしてくれるからちょっとは私に気を遣ってくれてるのかもしれない。
そこから私たちの話題は仕事の話になって、少しずつ京本とも意識せず普段通り話せるようになっていった。
しばらくして「俺、ちょっとトイレ行ってくる」って京本が席を立つ。
京本が席を立って、少しするとガラガラ、って入り口のドアが開いた。
そこそこに賑わう声の中で慎太郎さんの「北斗じゃん！」なんて声が聞こえて。
まさか、とそちらに視線を向けたら、そこには松村さんが立っていた。
あ、と思った瞬間にはもう時すでに遅し。
慎太郎さんと話をしていた松村さんが店内をぐるり、と見渡し、そしてその視線が止まる。
ばっちりと目が合ってしまったから、誤魔化しようもない。
「Aさん来てたんですね」
「えっと、はい」
「慎太郎が何も言わないから、いないのかなーって思ってました」
「あぁそれは、」
「お一人ですか？それなら「…誰、そいつ」
聞こえる低い声。
振り向けばそこには明らかに苛立った色を浮かべた京本がそこに立っていた。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
