68:意味がわからない ページ18
「は、い？」
いや、意味がわからない。
「いや、ちょっと待って。京本、私のこと避けてるよ？そんな相手にわざわざ買う？」
「京本も素直になれないんだよ。Aさんのこと心配なのに、意地張っちゃって。だから、言葉にしない代わりにカフェオレなんか買っちゃってさ」
でも自分じゃ渡せなくて俺にお願いするのはどうかと思うけど、って阿部くんは小さく笑う。
「いや、阿部くん、そんな冗談、、」
阿部くんの話を聞いても尚、全然信じられなくて。
「冗談だと思うなら本人に確認してみれば？」
ほら、って阿部くんがフロアの入り口に視線を向ける。
そこには京本と別部署の岩本さんの姿があった。
京本の視線がこちらに向いた瞬間、慌てて目を逸らすと、阿部くんが「まぁ頑張って」なんて笑った。
他人事だと思ってそんな適当な。
近づく京本の気配に気付かないふりをして、パソコンに向き合う。
気を落ち着かせようとカフェオレに手を伸ばしかけて、やめた。
…なんか飲み物買ってこよう。
デスクの片隅にカフェオレ置いて、その場から逃げるように自販機へと向かった。
#
自販機の前。
眺めてみるけど、飲みたいものなんて見つからなくてもう数分、自販機と睨めっこしてる。
早く戻らなきゃなのにな。
ふと、一番下の段に並ぶカフェオレが視界に入ると、「それ買ってるの京本なんだよね」って言った阿部くんの声が頭の中で再生された。
意味わかんない。
避けてるのは京本のほうなのに。
ほんと、意味がわかんない。
ゆっくりと指を伸ばしボタンを押す。
ガコン、と派手な音を立てて出てきた紅茶の缶を握りしめる。
指先から伝わる冷たさが纏わりついて気持ち悪くて思わず眉間に皺を寄せた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1099人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
