春鉛 #2 (ページ16)

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66:沁みるページ16

「美味かったな」

「うん、ほんと。多分人生でこれ以上のやつ食べれない気がする」

店を出て2人で並んで歩く。

どちらかともなく、自然に指先を絡めた。

あのとき、あんなに樹な触れられるのが怖かったのに、今は不思議とそんなこと微塵も感じなくて。

樹の少しだけ低い体温が心地良かった。

「またさ、高地とジェシー誘って、メシ行こうぜ」

高地に奢らせようぜ、なんて樹が笑う。

時間はかかるかもしれないけど、本当にそうなれたらいいな、と思った。

「じゃあな」

駅前に着いて、そう言うと絡めていた指先が離れていく。

少しずつ消えていく樹の体温に、寂しさが込み上げる。

「樹、」

「早く行けよ」

樹に押され、改札をくぐる。
振り返ると、人の波の合間に樹の姿が見える。

「樹、ありがとう、本当に」

「おう」

「…じゅ、り」

「早く行け、バカ」

樹はそう言うと背を向けて歩き出す。

ふと見えた横顔は少しだけ歪んでいた。

私も樹に背を向けて歩き出す。

振り返りたくなる気持ちを必死で抑えながら、ホームに向かう階段を駆け降りた。

ちょうどホームに滑り込んできた電車が大きな風を巻き起こす。

その風がそっと頬を撫でると、頬を伝う涙の冷たさが酷く体に沁みた。

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