20:意味わかんない ページ20
今日は定時＋1時間で仕事終了。
本当のことを言えばまだ仕事は残ってるんだけど、そこまでやるほどの気力がもう残っていないだけ。
仕事人間になれるほど仕事に情熱捧げてないし。
さて帰るか、とカバンを持って会社を出ると、入り口に京本が立っていた。
コーヒーショップのカップを片手にスマホを眺めている京本の姿は、どっかの雑誌から出てきたみたいで、思わず見惚れる。
「…じっと見てんのキモいんだけど」
私の視線に気づいた京本がスマホから視線をあげて、一言。
黙ってれば王子様みたいなのに、口を開いたら残念だわ、ほんと。
「なんでいんの？」
「Aのこと待ってたに決まってんだろ」
さも当たり前みたいに言うけど、私、京本と何か約束してたっけ？
「え、なんか約束してた？」
「してない」
じゃあなんで、って言おうとしたら「行くぞ」って京本がどんどん進みはじめるものだから、その背中を追った。
「ねぇ、意味わかんない」
京本について行って辿り着いたのは、私の家の最寄駅だった。
状況が飲み込めないでいる私を見て京本は「すげぇ変な顔してる」なんて笑うけど、うまく反応できないのが悔しい。
「Aが知らない男にほいほいついていかないように見張ってんの」
「いや、だからほいほいついていったわけじゃないって」
私の反論に京本は興味なさそうな反応。
なんなの、ほんとこの坊ちゃん。
「で、Aの家、どっち？」
「は？家までついてくる気？」
「当たり前だろ」
さも当然みたいに言いますけど、全然当たり前じゃないし。
何が楽しくて京本に自分の家教えなきゃなのよ。
教えたら最後、何もなくても押しかけられそうだし。
「ねぇ、京本」
「なに」
「お腹すいた」
私の言葉に京本は盛大なため息をひとつ。
だって、残業したし。お腹空いた。
それにどうにかして京本が家に来ることを阻止したい。
「どこで食う？」
なんかおすすめとかあんの、って諦めたように京本が言う。
うーん、ここら辺チェーン店ばっかりで、どこもゴミゴミしててあんまりいいところないんだよなぁ…
「あ、」
思い浮かんだひとつのお店。
場所はかろうじで覚えている。
行こ、と歩き始めると「お前、急に動くなよ！」なんて京本に一番言われたくない言葉を言われたけど、気にしない気にしない。無視無視。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月15日 22時
