Episode169 ページ20
Aside
ドアの前。目的の部屋の前に止まって、少し息をついた。遠征に行って帰ってきてから、一度も行っていない部屋。
「お、お久しぶりです……」
家のように居心地が良くて、大好きな太刀川隊の隊室。ずっと任務を休んでいたし、何より遠征であんなことがあって、私は少し気まずく思いながらそのドアをくぐった。
「……！亜桜ちゃん……」
「A先輩！」
隊室にいたのは、柚宇さんと京介だった。柚宇さんは私を見るなり表情を曇らせて、しばらくしてからがっと私に抱きついた。
「っえ、柚宇さ、」
「ごめんね、亜桜ちゃん」
身動きが取れないまま、私はまばたきをした。
「遠征の時、亜桜ちゃんのこと全然誘導できなかった」
どうして、みんな自分を責めるのだ。あれは私が招いたことで、みんなは何も悪くないのに。守ってもらうどころか、私が守ってあげたいような人たちばかりなのに。
「すっごく負い目に感じてて、お見舞いにも行く勇気でなかったの」
柚宇さんはそう言って私からゆっくり離れて、私の両肩に手を置いた。「一度も会いに行けなくて、ごめん」。私だって、あの時柚宇さんのところに駆け付けて抱き合えなかったことを、謝りたい。
「いいよ……いいよ柚宇さん」
柚宇さんには、いつも笑っていてほしい。
「自分のこと責めないで」
言うと、切なそうに笑う柚宇さんがいた。もう嫌だな、と思った。自分のせいで誰かが苦しむのも、謝られるのも、あいつのことがちらちら頭に浮かぶのも。……遠征って、こういうことなんだなあ。ボーダーは、正義の味方でキラキラしていて、わくわくして楽しくて……そういうものだと思ってた。だけど、そんなに綺麗なものではない。もっとずっと、黒くて残酷なものだ。
「先輩、もう……大丈夫なんすか？」
「京介。うん」
京介からは、遠慮を感じていて。以前から何も深く訊いてこないところがあって、今回の遠征の件だって、私達から話し出すまで訊いてこないつもりなのだろう。見舞いも、私が目覚める前は来ていたのに目を覚ましてから来なくなったと、米屋から訊いた。それも、京介の遠慮だ。
「、A！？」
「今日退院だったか？」
プシュ、とドアが開いて、出水と太刀川さんが部屋に入ってきた。そして、柚宇さんと京介が二人の元へ歩いていって、四人が並んだ。
「A、」
「「「「おかえり」」」」なさい」
横に並んだ四人を、私は正面から見つめたまま立ち尽くした。
「ーーうん、ただいま」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 483人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
亜桜(プロフ) - サクラさん» はじめまして、コメントありがとう御座います！！すごく嬉しいです……！こちらこそ数ある作品の中から見つけて下さりありがとうございました！ (2022年5月29日 1時) (
レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - はじめまして！作品一気に読ませていただきました。後半ボロ泣きしながら読みました。素敵な作品をありがとうございます！ (2022年5月24日 1時) (レス) @page50 id: 99a13ff01b (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - ペコの助さん» こんばんは、コメントありがとうございます！お言葉だけで大変光栄です。ありがとうございます。そしてご指摘大変助かります！見落としておりました;;なおしてきます！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 4e05bff474 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - 最後に非常に申し訳ないのですが、（親友）の場所が（旧友）になっていて変換ができていません。意図的でしたらすみません。頑張ってください！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - こんばんは！つい先日、この作品に出会ってから一気に読み進めてしまいました。心理描写諸々、とても素敵で何回も読んでいます。本当は単行本、購入したいのですがまだ、親の目があり難しくとても悲しいです....。これからも応援しております！ (2022年2月8日 1時) (レス) @page50 id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：亜桜 | 作成日時：2019年2月10日 13時
