モノクロノイズ。４【ワートリ】

Episode162 ページ13

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記憶を、消す。ボーダーだった全部。私も遠征のことを報告しなければ、秘密保持のために消されてしまうのだろうか。私からボーダーがなくなったら、何が残る？……何も残らない。だけど。


『ーーちょっとだけ……楽しかった』
　

あの時のあいつの顔、セリフ、噎せ返るような血の嗅い、辛いと思った心の痛み。全てを忘れられるなら。全てを忘れて一般市民として暮らしていけるのなら、それもいいのかも、しれない……？


「そんな訳、無い……」
　

ボーダーではない私など、嫌いだ。だけどボーダーだからこそこんなに痛い。なら、どうすればいい？ボーダーでいることだけが私の生きがいだったのに、その居場所が今ではこんなにも私の首を静かに締め続ける。


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「亜桜？」
　

基地の廊下。訊き慣れた声がして、その人物の方を振り返った。


「いいのか、外出して」
「トリオン体ならいいってさ」
　

三輪だ。私が目を覚ましたと知った時の三輪は、割といつも通りだった気がする。病室に来てくれたときも、「陽介が心配してたぞ」などと言って、素直に「心配した」とは言わなかった、そういういつも通りの三輪。


「……東さんがお前に謝っていた」
「え？」
「亜桜の方へ行ってやればよかった、と」


三輪は、かつて東さんが率いていた旧東隊のメンバーだ。だから東さんと交友があるのだろう。遠征のことも、東さんから訊いたのだろうか。


「何でみんな謝るんだろ」
「それだけ、お前のことを気にかけているんだ」
「……み、」
「亜桜ちゃん？ほんとにもう大丈夫なんだね」
　

三輪、とそう呼ぼうとしたとき、軽い声が私の声を遮った。そういえば起きてから一度も会っていない人。よくも悪くも、この人は私に対して干渉してこない。


「秀次か、そういえばお前ら同い年だったな」
「二宮さん」
「いやーお見舞い行けなくてごめんね、この所忙しくてさ」
　

三輪と同じく旧東隊だった二宮さんが言ったあと、犬飼先輩がへらっと謝る。「無事でよかったー」と頭をぐいぐい撫でるので私が顔をしかめると、二宮さんが「その辺にしておけ」と止めてくれた。


「太刀川の野郎が最近妙に落ち着いてて気味悪かったぞ」
　

更に「お前のせいだろ」と二宮さんが加えて言った。私は小さな笑いをこぼす。なんだ、二宮さんも私のことを心配してくれていたのか。


「はは、そういうとこ三輪と似てますね」
「は？」
「？」


他の誰の話ばかりして、素直に、自分もそう思っていたということは言わない人。口下手だけど、実は優しい人達だ。

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