モノクロノイズ。３【ワートリ】

Episode147 ページ48

奈那side



身寄りのない子供。親のいない子供たちを拾って食と寝床を与える。私の居場所となったのはそんな組織だった。もう何代も前の始祖たちは孤児たちが身を寄せ合う目的でこの組織を作っただなんて噂も聞いたことがあるが、今の組織の現状は拾ってきた子供に戦闘の教育、人を騙す教育、情けを捨てる教育を施し、戦争用の人形に育て上げられていくような場所だった。


『玄界に行って情報を得て来なさい』


数年前、大人にそう言われて、言われるがまま、大人の男と女と一緒に三人で玄界に行った。親子という設定らしかった。


『奈那ちゃん、これからよろしくね』


与えられた偽名を、そうとも知らず微笑んで呼びかけてくれる人間。初めて出来た、友達。こいつに会ったせいで、私の感覚はおかしくなっていった。


『Aって呼んでいいよ！』


戦争が当たり前だった。人と騙し合うのが当たり前だった。友達なんて作ったら裏切られるのがオチだと教わっていた。


なのに、こいつと出会ってしまったから。


私にとって当たり前だった全てがとても汚いものに見えて、逃げ出したくなった。しかし、組織の命令は絶対。私は最初で最後の親友を置いて、元の世界に帰還した。学校での平和な日々を送りながら影で集めていた、玄界の情報を持って。


それからの日々は、玄界に行く以前と何も変わらないもの。


人を殺し、トリオンを奪い、より強いトリガーを手に入れ、組織はどんどん大きくなっていった。自然と、平和に生きることを諦めていた。もう二度とあの頃には戻れない。本来私が住むべき世界はこういう世界だ、汚くても受け入れるしかない。あの日々とは決別しよう。Aのことは忘れよう。そう決意してから長い時間が経った。


『人違い、だよね』


なのにまた会ってしまった。それでも、もう決別すると決めたから。私は構わず武器をそいつに向けた。お前はもう“元”親友だよ、と心の中で何度も唱えて。本当に、殺してしまうつもりだった。


『トリオン体の損傷を確認、換装解除』


生身に戻って、そいつの暖かい体温を感じた時。また、迷いが生まれた。そして私が導き出した答え。それはこの数年間私が考えていたのとは大きく異なる答えで、でも、きっとこれが最善だと迷わず言えるような答だった。


『私を殺して』


笑って死ねる、最期を選んだ。組織の奴らではなく、私の大好きな親友に殺されるなら、最期だけでも私は人間らしくなれる？


『ーーちょっとだけ……楽しかった』


ありがとう、A。
今でも、大好きなたった一人の親友。

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