モノクロノイズ。【ワートリ】

Episode028 ページ29

迅side



最近、太刀川さんがよく話す子がいる。


「それ絶対ランク戦したいだけでしょ、太刀川さん」
　

その子は入隊したばかりらしく、SEを持っているらしい。太刀川さんが素質を見込んで入隊させた上に、正隊員になったら太刀川さんの隊に入ることが決まっているんだと。


「そりゃそうだろ迅。お前一回会ってみろ」
「その子、名前なんて言うの？」


その言葉に対して、おれはぼんち揚げを食べながら更に質問した。太刀川さんがそこまで評価する子、少し気になるし。


「亜桜A」
「ふーん。Aちゃんね」
　

あとでＣ級ランク戦でも見に行こうかな。



―――Aside―――



亜桜 ○×○×××○××○
出水 ×○×○○○×○○×


負けた。パネルを見上げながら、自分の結果を受け止める。やっぱり射手に対して苦手意識が拭えないのと、出水の球数と攻撃パターンが多くて予測するのを頭が拒否している。


「へー。なるほどね」
　

遠くの方から声がして振り返ると、私たちの結果を見上げる人がいた。その人物が想定外すぎて、私は一人で混乱する。え、なんで？


「迅さん！？」


思わずその人物の名前を口に出してしまったが、私はこの人のことを一方的に知っているだけ、向こうからしたら私は知らない訓練生なのでは……


「Aちゃんだよね。おれは迅悠一」


ここで、思考が停止する。は？私の名前？呼んだ？


「今見てたけどやっぱ強いね」
「……！？……？！」


あまりの出来事に声も出ず、私はパクパクと口を動かすだけだった。そんな私の気も知らず、迅さんは「これからもっと強くなる見込みあるよ」と更に私を褒める。これは何の幻だろうか。


「でもAちゃん、中距離の敵苦手でしょ」
「う、はい……」


見られていた試合の内容を思い返して、脳内で頭を抱えた。今日は一戦目の銃手に負けたし、さっき出水にも負けた。どうせなら勝っている私を見てほしかったのに。


「ざっくりした戦い方だよね。よく言うと感覚派、悪く言うと”考えなし”」


それはまさに図星そのもので、私はびくっと肩を跳ねさせた。憧れの先輩に負け試合を見られて、失望されてしまったのではないか。そう、少し怖く思った。


「まあ最初は頭回んないから。じゃ、ランク戦できるの楽しみにしてるよ」


ぽんっと迅さんが私の頭を撫でる。「わっ」と変な声が出てしまった。そして、そのまま迅さんは去って行く。残った彼の手のひらの温かさを感じながら、彼から受け取ったアドバイスを噛みしめた。


「頭を、回す……」


私は、肝に命じるようにその言葉を唱えた。

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