【WT】ペーパー・ムーン【メモ帳】 (ページ14)

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夏休みに入れば、まぁ当然のごとく講義が無い。

でも俺とAはほとんど毎日、時間を合わせて大学の図書館で会うようになっていた。

会うって言ったって、ちょっと喋りながら図書館へ行って、あとは4〜5時間お互い無干渉で本を読んだり自習して、時間をみて俺から「そろそろ帰ろっか」って声を掛けるだけ。

日が沈む前に家に帰すから、当然ランチ以外の時間帯に食事を一緒にした事もない。

まあでも、Aが一人暮らしするアパートの前まで送り迎えできるくらいには、発展していた。発展だなんて言っていいかわからないが。

そんな牛歩戦術に痺れを切らしたのは俺でもAでもない。せっついたのは、真夏の積乱雲。

sm「A大丈夫？」

『スマイルさんこそ』

Aを家に送っていく途中で、突然真っ暗になってバケツをひっくり返したような雨に見舞われた。

思わずAの手を掴んで走ったけど、Aの住むアパートの屋根の下にたどり着く頃には、咄嗟に手を繋いだ事を謝るのを失念するほど、2人してずぶ濡れになっていた。

sm「じゃ、すぐ風呂入れよ。また明日」

『え？！あ、待って……！」

心臓がバクバク言ってたのは走ったからで、Aの手を握ったせいじゃない。

逃げるようにさっさと別れてまた走ろうとしたら、Aは、俺の手を掴んでまで引き留めた。

『あの、……やむまで、うちに寄ってください。良かったら、その、お時間あれば、……ごはん、作ります』

どんどん尻すぼみになっていく声が震えていた。でもそれは、最初に聞いた頃の弱々しい声じゃない。

地面を打ち付ける雨音より早い鼓動は、俺だけのものじゃないと、その時だけは信じたいと願う自分がいた。