きみの死んだ街 ページ37
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彼女と鳩原の出会いはそう劇的なものではなく、ひとりべそかきながら自販機の隣に座り込んで泣いていた彼女を、鳩原が発見しておどおどと保護をしただけだった。
ボーダー本部内にはいたるところに自動販売機が設置されているが、数箇所だけ廊下の行き止まりに設置されたはいいもののあまり使用頻度の高くない自販機がかる。今では撤去されていて、例外なく彼女と鳩原の出会った自販機も今はなく、ただの冷たい壁しかない、そこは資料室の近くの自販機だ。
狙撃手として武器を持ち始めた当初、荒船からの叱責や自分のセンスのなさを痛感しては悔しくて泣き出すことが多かった。今では荒船に怒られても言い返したりと違うが、当時は怒られるだけ怒られると涙をこらえるのに精一杯だったのだ。
彼女は泣き虫だ。自分では認めてはいないものの彼女が泣き虫なのはボーダー内にいる人間からしたら周知の事実で、最初こそ荒船は遠慮していたものの次の指導の時には容赦なくやる気あるのかとキレだす始末で、吹っ切れて泣き虫の彼女にズケズケと物言う荒船の姿に周りの狙撃手隊員一同はそれは心配の眼差しを向けることしか出来なかったのだ。
鳩原も例に漏れず、怒り怒られ褒め褒められ、そうやって師弟関係を築く2人を心配していた。
その日はすこぶる調子が悪く1発も的の中心に当てられなかった彼女に「中心にあてることに満足するな。当たらなくて別にいい」と言った荒船の言葉に、遠回しに技量が足りてないことを怒られたと思った彼女は、あまり人の寄り付かないその自販機の横に身を寄せて泣いていたのだ。
「だ、大丈夫？どうしたの、」
「は、」
「は？」
「はもんﾞされるかもじれないﾞ」
「ええ？！」
咄嗟に声をかけてしまったことに気づいた鳩原は、今は行方不明の弟のことを思い出す。小さく踞る彼女が、弟と重なる。
嗚咽にまみれた悲壮な叫びは難しい言葉とともに飛んできた。鳩原は荒船がそんなことをするとは思えないけど、と思うも荒船に怒られてもこんな声をふるわせ泣いている姿は見た事がなく、また嘘も言ってるようには見えない。
鳩原は抱えていた書類を抱き抱えると困り果ててしまった。
これが鳩原と彼女の出会いだ。
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作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年2月26日 0時
