人中を食む ページ25
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「Aには最後の局面まで生きててもらいたいな。結構大変だと思うけど、Aがいなきゃ良い未来が少し遠いんだ」
あの日迅が彼女に向けて申し訳なさそうに笑ったのが、ふと蘇った。他の人にはそんな顔して頼まないのに、自分の時ばかりいつも頼む時決まって申し訳がないような困った顔をする迅が、彼女は心配だった。
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「小鍛冶、おまえは京介と一緒にC級を本部まで送れ」
木崎はそう告げた。彼女は目を見開きその命令は聞けないと反論しそうになり、迅の言葉を思い出した。ーー自分がいなきゃ迅の見つめる良い未来にたどり着けない。
迅は分かっていた。責任感を負いやすい彼女にわざと圧をかけた言い方をした。そうでもしなきゃ彼女は木崎と共に戦線離脱する未来が迅にははっきりとわかっていたからだ。
それでも彼女は木崎の言葉に食いついた。
「でも、」
「A」
その昔まで、木崎は彼女のことを名前で呼んでいた。それこそ本当の妹のように構ってやっていたからだ。だが自分なしでも立てるようにと距離を取るためにと、ある日を境に呼び方は他人行儀になった。それでも木崎は彼女を無意識に心配していた。だから玉狛に誘っては夕飯を振る舞い、悩み事はないかと声をかけるものだから、距離を取るにも近付いているだけだった。
「おまえはここでいなくなったらダメなんだろう。なら京介たちと一緒に行け」
「……小鍛冶、了解」
「A、行くぞ」
息を吸い込み木崎に背を向けると烏丸と共に本部へと目指す。
運命の分岐点が知らずのうちに別れたのを、遠くにいる迅は視ていた。
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作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2020年12月3日 0時
