戦場の戴冠式 ページ20
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『小鍛冶お前左のイルガーいけ。おれは右行く』
「小鍛冶、了解」
隊長の命令に応答して彼女はボーダー本部基地の屋上から太刀川と共に飛び降りた。真っ直ぐ基地に突っ込んでくるイルガーは、この前木虎が倒したと報告を受けていた近界民だ。
彼女の射手としての才能はずば抜けていた。ボーダー随一の最速で作られる合成弾ばかりが目を惹かれがちであるが、彼女の才能は弾の扱いに非常に長けていることにあった。合成弾のコントロール。これが彼女が出水と共に天才射手と言われる由縁のひとつだった。
「アステロイド+アステロイド」
グラスホッパーでイルガーとの向きの調節をしながら彼女は手元に出来上がったギムレットも調整してた。
弾の威力が増す分軌道のブレやすさが欠点のひとつにある合成弾を、彼女は扱いこなしていた。大きなキューブを小さく小さく押し込み4分割アステロイドの大きさまですると、息を吸い込む。
「……ギムレット」
彼女はギムレットを極限まで絞り、イルガーの目に向けて真っ直ぐ放った。
彼女は合成弾だろうと通常の弾トリガーのように軌道も弾速も自由に操る技術を持っている。もちろん一朝一夕で出来たものではなく彼女の血のにじむような努力の賜物であるのは間違いないが、元から引いてた才能も大きい。
急所を綺麗に貫通したイルガーはそのまま墜落していく。まるで奈良坂や半崎のような精密射撃を得意とする狙撃手が撃った後のような直線の貫通。右手では太刀川がイルガーを切り捌いている。ボーダー本部内で歓声が上がった。
『慶、小鍛冶よくやった』
無線の先から聞こえる忍田の声に太刀川は薄く笑った。
『おい小鍛冶』
「はい」
『まだやな予感すんのか?』
「……はい」
『んじゃとりあえず気が済むまで暴れて来いよ。一応迅から聞いてるし玉狛と合流すんだろ?』
『いいですよね、忍田さん』と笑う太刀川に忍田は了承の旨を伝えた。ここからが本番だと、彼女はきつく唇を噛んだ。
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作者名:40 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年12月3日 0時