7.katsuyama(デスティニーに帰ろう) ページ10
優しいひとだなぁ、と思う。それは声だったり仕草だったり言葉だったり。彼がルームシェアをしている、というとよく「そんなの」と付き合えますねと言われたりするけれど。もし仮に彼が本当に「そんなの」であるなら、「そんなの」である彼を好きな私も大概だろうに、いつも私にその刃は向かない。だからたまに泣きたくなってしまう。誰も悪くないけれども。
「...かつやまさん」
なんでいるんだろう、なんて思ってしまう私は大馬鹿者だ。かつやまさんを「そんなの」呼ばわりしてくる輩と何ら変わらないじゃないか。
「会いたくなったから来ちゃったんだけど...なんで泣いてるの?」
家の前で、正しくはマンションの前で私を待っていたかつやまさんは首を傾げながらも丸っこい手で優しく涙を拭き取ってくれる。
話せば長くなる。
何よりものかきのくせに頭がぐちゃぐちゃしていてうまく話せそうにもない。
「いやな人たちがいるんですよ、世の中にはいっぱい」
「Aちゃんが泣きたくなるくらい?」
…まずい、普段は泣かないことがばれてる。
「わたしが、かつやまさんのことを好きなんだから、かつやまさんがどんな仕事で、どんなところに誰と住んでたって、こうやって会いに来てくれるだけでじゅうぶんだってことをわかってくれない人たちだから、泣いちゃうんです」
別に、直近で嫌な思いをしたとかではない。
ただなんとなく思い出して悲しくなっただけで。
でもたしかにそれは、かつやまさんに長らく触れていなかったからかもしれないという気もして。
「えぇ...なんかごめん」
こちらも勝手に落ち込んでいるやさしいひと。
「ゆるします。M-1頑張ってるみたいだし。」
でも思いっきり抱きしめてもらわないと困っちゃうなぁというと、いいよ、いっぱい抱きしめたげるよなんて言うから、本当はもう夜王なんじゃないかと思わず疑ってみたりするうちに、エレベーターは私の階に辿り着いた。
「Aちゃん、」
ドアを閉めたところでふいに名前を呼ばれて振り返ったら、
「ただいま」
なんてかつやまさんが微笑んでいて、なんだかまた泣きそうになった。
誰がなんて言おうと、彼がわたしの運命だと、信じて疑わずにいようと思った夏の日。
8.kemuri(花はいずれ枯れてしまうから)→←6.kyogoku(529ヘルツ、深海のように。)

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そら(プロフ) - 京極さんのお話書いてくださりありがとうございました、素敵なお話で最高でした。これからもお話楽しみにしています。🙇🏻♀️ (2024年1月27日 22時) (レス) id: 794dd15670 (このIDを非表示/違反報告)
capoeira - ヤスさんのお話、ありがとうございました!凄く良かったです!感激!🥺 (2024年1月18日 19時) (レス) @page25 id: 7e00ae5964 (このIDを非表示/違反報告)
リーマニ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します!めちゃくちゃ面白かったです!どれもすきなのですが、特に箕輪さんとプロポーズ大作戦の言葉選びがすきです! (2023年12月9日 0時) (レス) @page21 id: 4f1bfd18a5 (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - コメント失礼します。言葉選びが最高で、神すぎる作品です!これからも楽しみにしています。リクエストなんですが、9番街レトロの京極さんで好きと表してるけど鈍感なので気づかないお話出来ればお願い致します。 (2023年11月25日 5時) (レス) id: 794dd15670 (このIDを非表示/違反報告)
capoeira - 初めてメールさせていただきます…!ヤスさんの話とっても良かったです✨ リクエストなのですが、ナイチンゲールダンスのヤスさんで、劇場を見に来た人に一目惚れするというお話をお願いします🙇 (2023年10月27日 17時) (レス) id: 7e00ae5964 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まるもち | 作成日時:2023年8月1日 17時