抱きしめてあげる

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東京から電車で2時間とすこし。スマホもイヤホンもかばんの奥底に封印してただ滔々と喋る時間が心地よくて、ずっとこのままだったらいいのになぁと柄にもないことを思ったりする。そんなこともこの人と出逢えなかったら人生の中で思うことはなかったのだろうかと思ったとき、ふと視界に色落ちした毛先が入った。浩一さんと出逢って暫くまで続けていた奇抜な髪型やネイルや服装は実のところ今はひっそりと鳴りを潜めている。そこまで至って初めて気づいたことだが、実際のところ私の奇抜嗜好はおそらく。

「…髪、染める？」
色落ちした毛先を眺めていたからか、浩一さんがそんなことをたずねてくるので、首を振る。
しかしそんなことをたずねるということは、今までの髪型や髪色は実のところ苦手だったのではなかろうか、なんてことが頭を過り。
「あ、違うよ？今までの髪色が嫌とかじゃなくてね」
ほら、学生時代とかは一応黒だったわけでしょ？だから、その状態も見てみたいなあって思ってね、とは。
この人、なんでこんなのなんだろう。もちろんいい意味で。
ものかきの癖にまとまらない頭から何かしら言葉をひっぱり出そうとしたときに、間もなく到着のアナウンスが入って、お喋りはいったんお開きになった。

✽

「個室露天風呂付き…」
そうだろうなぁとは思っていた、が、なんというかこう、予想を遥かに超えてくるグレードなのはやめてほしい。
「しゅんさんが教えてくれた」
どうやら私の呟きを「こんなところいつ誰と行って知ってるんだよ」という追求と捉えてしまったらしい浩一さんの予想外の答えに思わずツッコミそうになる。あの人そんなんだからお金が溶けるのではなかろうか。
「京極さんと泊まったって」
その次の情報には目を瞑った。大事だもんね、コンビ仲ってさ。私にはよくわからないけれども。
「ﾅｶｶﾞﾖﾛｼｲﾃﾞｽﾈ」
片言になった気もするが、大丈夫だと思う、たぶん？
そこからは高比良さんと京極さんのYouTubeの話やら、しゅんさんがてぃんさんにお金を借りるときの定例のやり取りの話やら、尽きない浩一さんの仲間の話を聞いて、晩御飯を食べて。
「…お風呂、どうします？」
ふたりで入るのがきっと正解なのだろうけれど、こういうロマンチックなところには如何せん慣れないし、個室露天風呂付きなんてどうしても原稿があがらなかったときに缶詰にされたこと以外で利用したことがないもので、正しいリアクションがわからないのだ。許してほしい。

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