11.kuruma(イーハトーブで逢いましょう)※死ネタ ページ15
「ばいばい」と言ったことが、本当に今生の別れになってしまうことなど、いったい人生で何回経験するんでしょうね、と言った俺の肩を松井さんがぽんぽんと叩いたことだけをまだ思い出す。
言葉にできなかったのか、ならなかったのかはわからないけれど、松井さんのあのリアクションはこのうえなく正解だったと思う。あのとき何か言われていたらきっとその内容が何であろうと俺は松井さんに掴みかかっていただろうし下手したら魔人無骨というものが消えていたかもしれない。だから、俺はこの時期静かに松井さんに感謝をする。戻らない彼女への愛情もついでに乗せてあげたりなんてして。
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背丈が小さい女の子だった。ぴょこぴょこ動いてたまにどこかにぶつかったり躓いたりして、ぎゃー!今の危なかったあ!!なんて笑ったりして。当たり前な話かもしれないけれど、男子校でラグビー漬けだっただけの人生を送っていた自分には当然ながら何か刺さるものがあり。好きになるのは偶然とか必然とかではなくて当然で、付き合うところまで持っていけたことが偶然ではなく必然だったのだと言うのが妥当な表現だったと俺は今でも思っている。
「直樹さん、大学辞めちゃうんですか?!」
松井さんとコンビを組むと決まってから、Aちゃんに大学を辞める旨を伝えたときは本当に驚いていて、そのうえ「私も大学辞めようかなぁ」なんて言うものだからこちらが面食らってしまって。
「いやいや、あと2年でしょ?俺が言うことじゃないけど、最後まで行った方がいいと思うよ」
「でもほら、直樹さんは芸人さんになるってことですよね?それを下支えできるくらいの財力はもうありますよ?」
このときはじめて俺は彼女がそこそこに名の売れた作家であったことを知った。
だからと言ってそれが彼女まで大学を辞める理由になったかと言えば怪しいが。
そこから2年ほどは家に帰ればAがいる日々だった。どこかで申し訳無さが募る一方、そこに彼女がいることに喜ばなかったわけがない。お前ほぼヒモじゃんと言われれば頷く他なかったけれども。幸せだったか?と言われたら、幸せだとか言う単純な言葉で表すのが申し訳なく思われるほどに、幸せだった。好きな人と楽しいことと信じた人と愉快な人たちだけで視界が満たされている人生なんてそうそうないだろう。
だけれども、思い出しておかなければならなかった。
幸せがずっと続く保証はどこに問い合わせても手に入らないものだと言うことを。

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そら(プロフ) - 京極さんのお話書いてくださりありがとうございました、素敵なお話で最高でした。これからもお話楽しみにしています。🙇🏻♀️ (2024年1月27日 22時) (レス) id: 794dd15670 (このIDを非表示/違反報告)
capoeira - ヤスさんのお話、ありがとうございました!凄く良かったです!感激!🥺 (2024年1月18日 19時) (レス) @page25 id: 7e00ae5964 (このIDを非表示/違反報告)
リーマニ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します!めちゃくちゃ面白かったです!どれもすきなのですが、特に箕輪さんとプロポーズ大作戦の言葉選びがすきです! (2023年12月9日 0時) (レス) @page21 id: 4f1bfd18a5 (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - コメント失礼します。言葉選びが最高で、神すぎる作品です!これからも楽しみにしています。リクエストなんですが、9番街レトロの京極さんで好きと表してるけど鈍感なので気づかないお話出来ればお願い致します。 (2023年11月25日 5時) (レス) id: 794dd15670 (このIDを非表示/違反報告)
capoeira - 初めてメールさせていただきます…!ヤスさんの話とっても良かったです✨ リクエストなのですが、ナイチンゲールダンスのヤスさんで、劇場を見に来た人に一目惚れするというお話をお願いします🙇 (2023年10月27日 17時) (レス) id: 7e00ae5964 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まるもち | 作成日時:2023年8月1日 17時