8.kemuri(花はいずれ枯れてしまうから) ページ11
ヤスさんの「ヒモ極意」として、花を渡せというのがあった。ヒモになるか否かはおいておいたとしても、女の子があんなに花で喜ぶというのはなんというか、俺にとっては新発見で。それに辿り着いたヤスさんは流石だなぁと思ったりするのである。
が、ヤスさん。目の前の彼女は違うみたいなんですが。
「...」
かれこれ5分はAちゃんは花を手に持って停止している。息をしているのか心配になるくらいに身動ぎひとつもしない。ただわかるのは、たぶん喜んでくれているわけではないということ。
花粉症だとかアレルギーは持っていないはずだけど、なんで?まじで助けてほしい、誰でもいいから。
基本彼女はくるまと同じだ。めちゃくちゃ喋る。放っておいても喋るし、相槌をうっても喋る。最近漫才の精度が上がったと言われるのは家でもくるま2号なAちゃんがボケ倒してくれているからかもしれないと思ったり。
それにしても長い。
これはたぶんボケじゃない。
何より黙ったら死ぬんじゃないかと思うほどに喋る彼女が一言も喋らずにスターチスの花束を見つめている。
「...ドライフラワーの作り方ってわかります?」
彼女が実に10分ぶりに発した言葉は、見事にアレクサのスピーカーに拾われて、アレクサが滔々とドライフラワーの作り方を喋り始める。
それを真剣に聞きながら部屋のあちこちから必要なものを引っぱり出してくるAちゃん。
「...え?どうしたの、ほんとに」
もうそれが本心だった。まじでわからん。
「花は、枯れちゃいますから。なんか嫌じゃないですか。枯れたら悲しくなっちゃう、松井さんのこと忘れるみたいで」
「花、好きじゃなかった?」
「好きじゃないといえばそうですね。枯れてこそ美しい花はありません。人生の終末期のように思えて心苦しくなることもあります。でも松井さんがくれた花に関してはそうだから嫌なのではなく松井さんがくれたものがあせることが不快なのです。」
アレクサに劣らぬくらい一息でそれを喋った彼女は俺の正面で再び花に向き直り、作業を再開しようとしていた。
「...要約したら、俺のこと好きってことでいい?」
「そうなります。」
間髪入れずに返ってきた返事に赤面したものの、作業に夢中な彼女が俺の顔の赤みに気づかずにいてくれてよかったと思った。
9.yasu(徒花よさようなら)→←7.katsuyama(デスティニーに帰ろう)

210人がお気に入り

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
そら(プロフ) - 京極さんのお話書いてくださりありがとうございました、素敵なお話で最高でした。これからもお話楽しみにしています。🙇🏻♀️ (2024年1月27日 22時) (レス) id: 794dd15670 (このIDを非表示/違反報告)
capoeira - ヤスさんのお話、ありがとうございました!凄く良かったです!感激!🥺 (2024年1月18日 19時) (レス) @page25 id: 7e00ae5964 (このIDを非表示/違反報告)
リーマニ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します!めちゃくちゃ面白かったです!どれもすきなのですが、特に箕輪さんとプロポーズ大作戦の言葉選びがすきです! (2023年12月9日 0時) (レス) @page21 id: 4f1bfd18a5 (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - コメント失礼します。言葉選びが最高で、神すぎる作品です!これからも楽しみにしています。リクエストなんですが、9番街レトロの京極さんで好きと表してるけど鈍感なので気づかないお話出来ればお願い致します。 (2023年11月25日 5時) (レス) id: 794dd15670 (このIDを非表示/違反報告)
capoeira - 初めてメールさせていただきます…!ヤスさんの話とっても良かったです✨ リクエストなのですが、ナイチンゲールダンスのヤスさんで、劇場を見に来た人に一目惚れするというお話をお願いします🙇 (2023年10月27日 17時) (レス) id: 7e00ae5964 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まるもち | 作成日時:2023年8月1日 17時