【d!】人気作家の異世界生活【軍パロ】

◇最後の夜と最初の朝 ページ2

ある夜。彼女はどっと疲れていたが、1人の男を部屋に招くためにせっせと準備していた。

定刻通りにやってきた身体の大きな男は、1本のボトルをもってきた。

「改めまして、先生、大賞受賞おめでとうございます」
『ありがとうございます、サポートして下さった富田林さんのおかげですよ』
「いえいえ、僕はただの原稿取り立て屋ですから」

先生と呼ばれた彼女は、名の知れた小説作家。
富田林と呼ばれた男は、彼女を担当する編集者だ。

この度、名誉ある大賞を受賞した彼女は、連日のインタビューやTV出演で疲れきっていたのだが、全てやりきって見せた。そして、ようやく落ち着いた今、編集者である彼との約束である祝賀会をすることになったのだ。
お祝いにと渡されたシャンパンをせっかくだからと開け、ハムやチーズも持ってきて、本当に小さな小さな祝賀会をした。

ずらりと本の並ぶ彼女の仕事部屋でカチンとグラスを鳴らし、多くを語りあった。なんせ、富田林という男は彼女の編集者である以前に彼女のファンなのだ。

興奮冷めやらぬ彼の話を聞きながらシャンパンを飲むのが何かを受賞した時のルーティンとなっていて、今回ももれなくそのルーティンの中でふわりふわりと心地よく酔っ払っていた。

ひとしきり語り終わった彼が時計を見て慌てるのはいつもの事。暫くはお休みを貰うことになった彼女は、また連絡をすると伝えながら彼をタクシーに詰め込んだ。
走り去るタクシーを見送った後、今日の片付けは明日やろうかと決め、身の回りの全てを終わらせて眠りについた。


バチリと強い電流を太ももに受けた気がする。
思わず目を開けるも、あまりにも強い睡魔に勝てず、どうせ夢だろうとそのまま目を閉じた。


それがいけなかった。
もっと確認すべきだった、と翌朝後悔することになったのだ。


定刻通りに目が覚めた彼女は、パジャマから着替えようとして目を見開いた。左の太ももにまるい痣がある。
いや、これは痣ではない。なにか押し当てたか焼かれたかしたような、まるで刻印のようなものだった。よくよく見ればその円は魔法陣のような複雑な模様をしていて、一体何があったのだと恐れた。あの夢は夢ではなかったのだろうか。にしたって何故こんなことになっているのか。
何かあっては困るからと、持ち合わせていた包帯でぐるぐる巻いて隠した。ちなみに痛くはない。

その上から洋服を着て外に出てまた驚いた。
どこかの森の中だろうという検討しかつかないこの風景は、絶対に現代日本ではない。
全ての把握に時間を要するとわかった彼女は頭を抱えた。

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