おいでエリンギ

46、仲良しっぽいじゃんね ページ46

西蔭さんと連れ立って向かった例の観客席は今日も今日とてがら空きだ。

そのあとは特になんと言うこともなく普通に隣に座って試合を見た。時々喋ったり、メモをとったり。
よく考えてみると、“あの”王帝月ノ宮の西蔭さんと横に並んで試合を見るなんて、なんと言うことアリアリなのだが。

やばいな、自分。もっとこう、トップ選手とお知り合いになれた幸運を噛み締めておこう。

お知り合い……か。
A的基準で言うと、連絡先を交換してからが『友達など』なのだが。

それならこのままで良いかな、と思った。知り合いのままで構わない。

なんか、この流れで西蔭さんと電話番号とか交換するのは、フジュンっていうか。
これ以上距離を縮めようとしたら、西蔭さん困るんじゃないかな。

雲の上の人である西蔭さんは、大会という非日常の中だからこそ、私と接してくれているのだと思う。

それに、競技場の中だけのいきあたりばったりな関係っていうのも、きっと粋なものだろう。

試合が終わって、私は席を立った。
西蔭さんも野坂さんをお迎えに行くために、一旦駅まで戻るらしい。渋谷駅の銅像がポワンと頭に浮かぶ。

「今日はどうもありがとうございました。次がいつになるかわからないので言っておきますね、二回戦頑張ってください。」
「ああ。Aも、明後日だろ、試合。」

頑張れよ、と西蔭さんが言い、頭にハテナが浮かぶ。

「私、試合出ませんよ。」
「でも、頑張って応援してるだろ。」

だろ、ってその言い方、なんだか知っているかのような。いやまあ、西蔭さんの言う通りなのだけど。

「どっかで見てましたか？」
「ああ。一昨日の試合で。纏向中にすごい一所懸命応援してるやつがいると思ったら、どこか見覚えのある顔で。その後で再開して、びっくりした」
「えええ、いらしてたんですか。えってか本当ですか。」

嘘をついてどうする。と、西蔭さんが呆れたような顔をする。

「いつもの席から見ていた。」
「いや、目ぇ良すぎませんか。えー、なんか、恥ずかしいな。」

顔が赤くなるのを感じた。それを隠そうと手で顔を覆う。

まあ、頑張って応援します、とごにょごにょ言って西蔭さんと別れた。

改札に入った後西蔭さんをちらっと振り向いたら、目があったので手を振っておいた。
西蔭さんは手を上げて、思い直してその手を一旦頭におき、結局困ったように手を振ってくれる。

なんとも言えないその行動がやけに嬉しくて、つい笑ってしまった。

47、高貴→←45、なんだって？！

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す