僕は僕の青春を取り戻す【∞】2 (ページ5)

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◎よこやまさん

2012年3月某日。

晴人がひっそりと仕事復帰を果たしたのは、
冬の寒さが少しばかり残る2012年の3月。

水面下で始まっていた、映画エイトレンジャーの撮影でのことだった。

「白岡さん、オールアップです！」

車椅子から立ち上がった晴人は、スタッフさんから渡された花束を笑顔で受け取っている。

『たった1日でしたが、撮影に参加させていただけたことが本当に嬉しかったです。ありがとうございました。』

少し照れたような表情で、だけどもしっかりと言葉を紡いで挨拶をした晴人は、なんだか妙に大人びて見えた。

晴人の役柄は、交通事故で足が不自由になったことを理由にヒーロー協会を後にした元レンジャー、白井悠人役。

晴人の負担と体調も考えて、
出演するのは俺と2人のシーンだけ。

白井悠人がたまたま荷物を取りにヒーロー協会に来たところで、俺が扮するブラックこと横峯誠とばったり会う、といったシーンだ。

そこで交わされる会話でブラックのヒーローに対する意識が変わるという、結構重要な場面でもある。

出演時間にしたらほんの数分。

だけど、一年以上仕事を休んでいた晴人にとっては大きな一歩だった。

「晴人、おつかれさん。」

俺は晴人の元に駆け寄り労いの言葉をかける。
すると彼の顔は途端に子どものような笑顔になった。

『横山くんもお疲れさま。フォローありがとうね。』

「しんどなかったか？」

『ううん。全然大丈夫！楽しかった。』

楽しかったという言葉が聞けただけで、
俺はひどく安心した。

というのも、もともとこの映画には晴人の出演予定はなかった。

だけど、8周年という大切な年。

どうしても晴人が戻ってくるきっかけを作りたくて、スタッフさんや監督に掛け合って出演できるように調整してもらったのだ。

『横山くん、ほんとにありがとうね。』

「俺はなんもしてないよ。」

『ううん、だって、横山くんが動いてくれたんでしょ。スタッフさんから聞いた。』

「あれ、バレてた？」

『うふふ、聞いちゃった。ごめんね。』

「そんな、俺かてお前が来てくれてほんまに良かったわ。」

晴人は申し訳なさそうに頭を下げた。
だけど、晴人のことを気にかけてるのは決して俺だけではない。

セットの物陰でモゾモゾと動く“奴ら”の気配。
奴らもまた、晴人のことを首を長くして待っていたのだ。