僕は僕の青春を取り戻す【∞】2 (ページ32)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:34,729 hit

＃ページ32

◎むらかみさん

「淳太、ほんまにすまんな。おおきに。」

やっとの思いで店を出て晴人をタクシーに押し込み、俺はここまで介抱してくれた淳太に礼を言った。ついでにその手にタクシー代を握り締めさせる。

「いやいや！こんなにいいですって！僕自分で帰れますから。」

「かまへんかまへん。その代わり、うちの晴人のことこれからも頼むわ。」

俺がそう言うと、困った顔をしながらも渋々受け取ってくれた淳太。きっと俺らには言えないような悩みも、彼になら打ち明けられることもあるだろう。初期の頃に築き上げられた同期の絆に、俺らが入り込む余地はない。

「あの…。村上くん。」

「ん？どうした？」

タクシーのドアを閉める直前、淳太に小さな声で呼び止められた。

「こんなん俺が言うのもちょっと違うかもしれないんですけど…今の晴人、本気で腹括ってると思います。こんなに前向きな晴人、久しぶりに見ました。」

先週俺は、初めて晴人がパーソナリティを務めるラジオを聞いた。
言葉に詰まるところもありながらも、彼は確実に自分の殻を破ろうとしていた。

「ここ数年の態度で、メンバーの皆さんに不快な思いをさせてしまって申し訳ないって、晴人ほんまに後悔してました。」

自分の弱さをさらけ出すこと。
自分の想いを言葉にして伝えること。
簡単なように思えて実はすごく難しいことなのだと、晴人を見て思わされている。

たしかに、ここ数年の彼の態度はプロとして許されるものではなかったかもしれない。
だけど、確かに変わろうとしている晴人を目の前にして、それを否定できるほど俺は偉くもない。支えたいという思いは、常に心の中にあるから。

「晴人のことよろしくお願いします。俺は話聞くぐらいしかできないですけど。」

「おん、任せとけ。俺らがこいつのこと見捨てるわけないやろ。」

きっとまた、厳しいことも言ってしまうと思う。

だけど絶対に、この引き留めた手を離さないでいてやりたい。

春の夜空の下。タクシーの中から都内の景色を眺める。
大阪から出てきて、この場所で随分と長い間戦ってきた。

「お前、頑張れよ。晴人が変わったら、たぶんグループも良い方に変わっていくと思うから。」

俺は小さな声で、聞こえているはずもない寝顔にそっと本当の気持ちを語りかけた。