僕は僕の青春を取り戻す【∞】2 (ページ12)

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◎やすださん

2012年2月。

晴人がコンサートに来てくれてからひと月ほど経った頃。彼は俺を今住んでいる家に招待してくれた。

メンバーの中でこの部屋に来るのは俺が初めてらしく、コーヒーを入れたりクッションを渡してくれたりと、晴人は何やらせかせかと動いている。

「こんなところ東京にもあるんやね。なんか、めっちゃ落ち着く。」

『せやろ？すぎもっちゃんがね、見つけてくれてん。とにかく落ち着いた暮らしがしたいって頼んで。』

都心部からは電車で30分ほどかかる郊外。
緑に囲まれた住宅街を過ぎたところに、こじんまりと佇む三階建てのマンション。
日当たりの良い南向きの部屋に、晴人はひっそりと暮らしていた。

「でも、大丈夫なん？セキュリティとか。」

俺が尋ねると、晴人はきゅっと眉を下げた。
たぶん、いろんな人に大丈夫なんかって聞かれてるんやろうな。

『アイドルにとったらきっと駄目なんやと思う。でも、俺は今アイドルから離れてるから。』

「晴人は今、ここで暮らしてて楽？」

誰にも守られない、遠い場所に行きたい。
そう願った晴人にとって、今いる場所が安心できる場所であることが俺の願いだった。

『うん。すんごい楽。』

「そっか、晴人が安心して暮らせてるんならよかった。」

晴人と2人、コーヒーを飲みながら並んで座る。
ゆっくりと、穏やかな時間が俺たちを包んでいた。

『映画の監督さんがね、エイトレンジャー出てくれませんか？やって。』

しばらくして晴人の口から出てきたのは、俺たちも昨日知った仕事復帰についての話。

『章ちゃん、俺、出てもいいかな？』

「晴人の思うとおりにしたらいいよ。もちろん晴人と一緒に仕事できたら嬉しいけど、晴人がしんどいって思うことはしたくないから。」

『そっか。』

晴人はそう呟くと、コーヒーを一口飲んで立ち上がった。
俺はそんな晴人を見上げる。

『章ちゃんは優しいね。』

ソファーから立ち上がった晴人がまっすぐと見つめる先には、一台のノートパソコンがあった。彼が以前から愛用していたものだ。

『ねえ、章ちゃん。見てほしいものがあるねん。』

晴人はノートパソコンを手に取り、電源を入れる。

『もし俺のこと嫌いになったら、言って。』

俺はこの日、彼がずっと一人で抱えていたものを知ることになった。