手加減無用#2 ページ11
「──抱きしめられてるかと思いました」
二人になって、開口一番の言葉がそれだった。解けなくなったネクタイをいとも簡単に解いていく川上くんは、初めて見るスーツ姿だからか雰囲気が違って見える。
「そりゃこうちゃんに失礼ってもんだよ」
「また年齢の話ですか？」
「須貝くんがジェネレーションギャップを感じてる時点で私にも同じことが言えるからね」
「ああ、なるほど……解けましたよ」
「おお！ 流石、締め慣れてる人は違うねぇ」
解けたネクタイを受け取ると、川上くんは今度は自分のネクタイを解き始めた。
「え、何やってんの」
「ネクタイ締めてみたいんでしょ？」
「うん」
「じゃあそっち向いて」
顎で反対側を差されたから言われるがままに後ろを向くと、川上くんの腕が回された。
「えっ!?」
「やってみせるんで、ちゃんと覚えてください」
「自分のネクタイ解く必要なくね？ こうちゃん貸してくれたし」
「何で自分が好きな人が他の男のネクタイ締めるの手伝わないといけないんですか」
「ｱｯﾊｲ」
耳元に吐息が当たって思わず肩に力が入った。
あの日、酷いことを言った自覚はある。いつもその時だけ強気になって、一人になってから後悔するのだ。
今回もその例に漏れず、顔を合わせづらくて忙しさを理由にオフィスに来なかった(忙しかったのは本当だけど)。あわよくばその間に心変わりしてくれたりしないかな、等と卑怯なことも考えた。
「川上くんは本当にいい子だよね」
「何スか急に」
「前々から思ってたんだけど、ここ最近はさらにそう思うようになったというか」
「……好きになってもらわんと意味ないわアホ」
「うーん、そもそも川上くんが思ってる以上に私って汚いし面倒くさいよ？」
「面倒かどうかは分からんけど、汚いとは思ったことないです。Aさんはいつだって綺麗ですよ」
「おお、これが河村くんが言ってたやつか」
褒められるのに慣れていないから背中がむず痒い。空気を変えようと茶化すような相槌を打てば、きゅっとネクタイをキツく絞められて変な声が出た。
それが仮にも好きな人に対する仕打ちか。好きな子はいじめたい小学生か。
息ができる程度に緩められて、どこから出したのか小さい鏡が渡される。
「おお……さすが」
「満足ですか？」
「うん、満足」
「言ってくれればいつでもやってあげるんで、他の人に頼むのは禁止で」
「え、けどもう大体覚えたし」
「忘れてください」
「せっかく覚えたのに!?」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 369人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
氷室(プロフ) - ゆうさん» 遅レスで申し訳ないです。コメントありがとうございます。中身だけでなく文法まで見ていただいてありがとうございました。いつかまた書きにきます！ (2021年8月17日 19時) (
レス) id: 1bccd1cc64 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - 凄く面白いし文法しっかりしてるしてるし、2人がくっつくまで最後まで見たかったのが悔やまれます (2021年8月5日 11時) (レス) id: b752a04231 (このIDを非表示/違反報告)
氷室(プロフ) - シャボン玉さん» コメントありがとうございます。14時代からのラベンダー推しです！分かる人がいてちょっと嬉しいです笑 (2019年12月22日 20時) (レス) id: 5b43cc9a48 (このIDを非表示/違反報告)
氷室(プロフ) - 七海さん» コメントありがとうございます。川上さんが子供っぽすぎるかなあと思っていたので、可愛いと言っていただけて嬉しいです。今後もよろしくお願いいたします。 (2019年12月13日 18時) (レス) id: 5b43cc9a48 (このIDを非表示/違反報告)
七海(プロフ) - こんな川上さんいたら、キュン死にする。かわいい(´・ω・｀) (2019年12月13日 16時) (レス) id: b66e2f7b3d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：氷室 | 作成日時：2019年11月27日 0時
