with you3 【Kazuma.k】 (ページ8)

今日:1 hit、昨日:20 hit、合計:77,972 hit

-6 ページ8

.

ふっと逸らされた視線と吐き出された短い息に、諦めのような観念したかのようなそれを感じて、解放されたと、そう思ってしまった。

でも多分それは思い込みじゃなくて、北ちゃんのそういういつもと違う真剣な表情はもう跡形も無くなっていた。
離れていく左手の温もりを寂しいと思うのは、流石に嫌な女がすぎる。
急に冷たくなったから、驚いただけ。
ただ、それだけだ。

「じゃ、疲れたし帰ろ～」
「…あ、うん」
「実は今日Aにサプライズパーティするから準備の時間稼ぎだったんだよね」
「えっ？」
「だから帰ったらちゃんと驚いてね」
「はっえっちょ、無理でしょうが！！ここまできたら普通言わないよね？！」
「だって言いたくなっちゃったんだもん」
「自由すぎか！！！」

突拍子もない北ちゃんの発言に知るはずでなかったことを知ってしまって、思わず普段のようなやり取りをしてしまった。

それなら辻褄が合う。
けれど、今このタイミングで答え合わせをしてくれると言うのは、かえって態とらしすぎるとすら思う。
私は気遣われている、同時に北ちゃんを傷つけてしまったのではないかと自惚れている。

そのどれもを言葉にも態度にも出さずに、甘えてしまうどうしようもない私には、真剣に向き合わなかったツケがいつか回ってくるだろう。

「ま、壱馬と喧嘩してたおかげで俺がこの役割貰えたのはラッキーだったけどね」

「今度は、口実なしのデートしようね」

「了承しかねます」
「照れなくてもいいのに～」

まるでいつも通りに振る舞う北ちゃんの言う、「今度」は、来ないような気がした。

それは変なところで聡くて図々しくない北ちゃんの、私への精一杯の優しさだって、本当はちゃんと分かっている。

北ちゃんをこんな風に近くに感じるのは、心の内を曝け出して求められるのは、これが最後な気がしていた。
その真意の限りは分からずとも、北ちゃんはいつも通りに振る舞ってくれている。
だから私はそれに合わせていつものように接するのが精一杯の出来ることだと思った。

私と北ちゃんは悪友だ。
私にとっては大切な人に変わりない、今の関係がずっと少しも変わらずに続いたらと今も尚心から思っている私は、北ちゃんにとって優しくできているのだろうか。

.