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耳を凝らし、よく思い出してみる。よく通る声。普段喧嘩や争いを嫌うふっかが安心して痴話喧嘩できる相手、しかも女。
『なのに2人とも気づかないし、1人はイヤホン着けてるし筋肉マッチョのくせに背中無防備だし、目隠ししてくださいって言ってるようなもんだよ？』
いたずらっ子な女子は知り合いに沢山いるけれど、俺の情報網が声と内容から対象を引き出す。
「でもバックハグしてるみたいじゃんかぁ……。さすがの深澤もそれは嫌だ。お前達の仲だからなおさらやだ」
『妬いてるの？ 可愛いっ』
「可愛い言うなって！ かっこいいがいいの！」
ふっかが安心して駄々をこねられる女。俺と仲が良く、嫉妬しないと公言しているふっかを平気で妬かせそうな女。そして自称イケメンのふっかに可愛いと言える、可愛いと思っている女。
俺の思考回路は1つの検索結果を導いた。
「もしかして今目隠ししてるのA？」
『うん。大正解』
「じゃあふっかと付き合ってるのもA……？」
『イエス』
「……嘘。絶対嘘。ドッキリ仕掛けてるでしょ？」
信じられない。全く信じられない。Aは人に小さいドッキリを仕掛けるのがとても大好きな女の子だ。きっとふっかと共謀して俺を弄ぼうとしているんだ。
「本当に付き合ってるなら証拠を見せてよ」
どうせ嘘だよー、なんてネタばらしをするに決まっている。その手のドッキリには乗らない。乗ってやるもんか。
「仕方ねえな……。A、チューすっか？」
『は？ キモすぎ。超キモいんだけど』
「おいおい……。彼氏のチューをキモいキモい言うなよ……」
ふっかの声色が下がった。
『そうじゃなくて。ふっかとチューするのは好きだけど、見せつけるようにチューしようとしてるのがキモいの。もっとあるでしょ、付き合ってるって信じてくれるような証拠は』
生々しい。自分の映し鏡のような存在と俺にとっての永遠の座長が、誰も知らない場所で唇を触れ合わせている……？
Aとしては励ましてフォローするためだったのかもしれないけど、ふっかとチューするのが好きだというのはかなりのカミングアウトだ。聞いている俺が恥ずかしくなってくる。
「あの、A？」
『ん？』
「分かった、付き合ってるって信じる。信じるから俺以外の前でふっかのチューが好きとか言っちゃダメだよ？」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月27日 21時
