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視線に気づいたのか、辰哉くんはニヤニヤしながら風呂椅子に腰かける。
「何？ 水も滴るいい男って？」
『まだ滴ってないじゃん』
全身に水が滴るとプレデターだと言われ、カメラの前で決め顔をする舘さんの後ろで大事な部分を晒すと汚い物を晒すな、と怒られる。
バラエティなノリYouTubeとはいえメンバーに化け物扱いされる人が本当に水も滴るいい男なのか。本当は滴らなくてもいい男なのだけど、辰哉くんは気づいているだろうか。
「待って、そんな見られると恥ずかしい……」
さっきまで調子に乗っていた人が急に照れ始める。
『じゃあ映画見て待ってるね？』
「……おぉい。切り替えが早すぎるのよ」
『恥ずかしいって言うから映画見ることにしたのに』
難しい。難しいと思いながらも三角座りの姿勢にする。辰哉くんとお風呂に入る時のいつも通りの姿勢なのに今日はイレギュラーだった。
『んっ……？』
脚を曲げると電流がビリッと流れるような不快な痛みが走った。すぐに収まったけれどほんの少しだけ不安を覚える痛みだった。
「どぉした？」
シャンプーする音でかき消されたと思った小さな声も辰哉くんは拾っていた。髪を洗うのをやめて泡まみれの頭でこちらを見る。
『なんでもなくはないけど大丈夫』
「なんでもあるなら大丈夫じゃねえじゃん」
『本当に大丈夫』
気のせいだ、気のせい。痛くない、痛くない。自分に言い聞かせつつアザを隠したつもりだった。
「え、お前派手にやらかしてんじゃん」
『バレた？』
「バレた、じゃねえって」
浴槽を覗き込んだ辰哉くんは目を丸くした。今はメガネがなくコンタクトもしていない。よく目を凝らさなければ見えないはずなのに見えたらしい。
「お前何したらそんな怪我すんの……？」
『共演者の剣が当たっちゃったの』
決してわざとではなかった。相手の方はとても申し訳なさそうに何度も謝ってくれた。念のために辰哉くんにはそこも伝える。
『なんかビリビリって痛みがあったの。今はもう大丈夫』
「病院は？」
『行かないつもりだったけど、明日の夜公演前に行くかも』
「絶対行って。お願いだから」
髪の泡を流して体を洗うのも忘れている。
「風呂上がったらすぐ行って。俺タクシー呼ぶ」
『大丈夫だって。明日でも』
「絶対ダメ。明日歩けなくなってたらどーすんの？」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月27日 21時
