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阿部ちゃんはほお、と感心したように頷いた。佐久間の隣に座り、紙コップのお茶を口に含む。
「大人になったな……」
「俺を置いていくなよ。お前こっち側の人間だったじゃん」
照にも感心された。2人とも年下なのに先輩を舐めている。翔太はデビューして人が集まるようになって影響からか、ほんの少しでもコロナ禍が落ち着いたからか、少しだけ遊びを再開しているらしい。
「いつの話だよ。もう3年も前だっつーの」
俺にはAがいる。Aがいれば大抵の欲は解消されるし、何よりも一緒にいれば怖くない。
「俺さ、あいつとなら不幸になってもいいと思ってっから」
「幸せになるんじゃなくて？」
「それは前提じゃん。Aと幸せになりたいよ？ でも不幸になっても構わない。そういう気持ちなのよ」
もちろん幸せになるのも不幸になるのもA限定だ。それ以外の女の存在など毛頭考えていない。
「……ほんっと、勝てないな」
ポツリと舘さんが呟いた。
「ふっかがそういう風に思えるからお嬢はふっかを選んだのかな」
お嬢。Aの呼び名だ。樹が姉御なら舘さんはお嬢。どうにもむず痒いらしく、Aは呼び捨てにしてと頼んでいるけれど2人とも一貫している。
Mis SnowManとして活動していた頃にジャニーズの舞台で俺らとAは共演した。今ここにいる全員が帝劇の板の上で切磋琢磨した。お正月の公演だったから皆で雑煮やおせちを食べたし、ちゃっかりお年玉も貰った。そして彼女の努力と実力の差に打ちひしがれ、誰もが挫折を味わった。同世代の演技やパフォーマンスとは思えなかった。
「時効だから言えるんだけどさ、」
舘さんは寂しげに微笑んだ。
「俺、お嬢が好きだったんだよね」
「……え？」
誰もが驚いた。
「長い片想いだったよ。でも俺の出る幕はなかった。だから何も起こらなかった」
「ま、マジで？ グループ内で修羅場が起こるの……？」
翔太が激しく動揺している。
「起こらないよ。諦めたし」
「意外だな。舘さんガツガツいきそうなのに」
「しっかりアピールしそうなのにな……」
照と佐久間も驚きつつ冷静を失わないように必死だ。俺もまた心が揺れている。
「正直アピールはしたよ。お嬢が好きになってくれないかなって」
でもダメだった。友達以上になれなかった。舘さんは再び寂しそうに笑った。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月27日 21時
