時効だから ページ22
·
コロナ禍が少し落ち着いて、久しぶりに6人で会えた。喜びに沸き立ちそうな心を少しでも落ち着かせようと、俺は6人分の冷えたお茶を準備する。こういう時のために紙コップを常備していてよかった、と思う。
「マジでお前とAが付き合ってんの？ 信じらんない」
場所は俺の家だ。開口一番、翔太がソファを陣取りながらそう言った。
「マジだって。信じてよ」
「信じろって言われて信じられると思うか？」
「普通に無理だよな！ ふっかと藤やんだぜ？」
佐久間はダイニングテーブルの椅子に座った。
「でもふっかに彼女ができたっぽいのは分かってたでしょ？ 大ちゃんも翔太も」
照は佐久間の真ん前に座った。2人は息ぴったりにうん、と1回頷いた。
「明らかに落ち着いたし、気づいたら禁煙してたし。禁煙なんて彼女ができないと絶対しないよ？」
「いやぁ、ね。本当はしないつもりだったよ？ あいつは吸わないけど俺が吸うのは理解してたからさ。でもさぁ……」
一昨年の夏、Aがミュージカルの地方公演中におじいちゃんを亡くした。その原因が肺にガンを患ったこと。見つかった段階で余命宣告されるほど進行していたこと。非喫煙者であったなら受けられたはずの治療が、喫煙者であるが故に受けられなかったこと。
Aが悲しんでいる姿を見ると胸が痛かった。もし結婚して長い時間を過ごせるようになったら、俺は間違いなく悲しませてしまう気がする。泣かせると思う。
「俺ねぇ、Aを悲しませたくないのよ。じいちゃんすっげえいい人だったけど、Aを悲しませて旅立ったことは絶対許さないし」
それが禁煙を決意させた。いつかは辞めるつもりだったけれど、こんなにも早く辞めるとは自分でも思わなかった。そして継続できていることにも驚いている。
「Aだけじゃねえな。子供にも悲しい思いさせたくないのよ」
「結婚も視野に入れてるの……？」
阿部ちゃんが目を丸くした。
「あたりめえよ。俺来年には30になってるんだぜ？ さすがに落ち着きたい年頃にはなってきてるし……」
「なってきてるし？」
「お互いこれが最後の恋愛だってタカをくくって付き合ってるし」
それに、俺を1番に理解してくれる女性というのもAくらいだ。他の誰かと付き合っている自分を想像できない。
「じゃないと2年も真剣に付き合えない」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 844人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月27日 21時
