大丈夫なんかじゃない ページ8
「うぉ…ッ、冷てぇ…」
男子寮の風呂場に萩原の声が反響した。
誰もいない冬場の風呂場はただでさえ冷んやりとしていて、
足を踏み入れれば湿ったタイルから伝わるキンとした冷たさに眉間に大きな皺を寄せた萩原。
明るい──とまではいかないが、萩原の声色は，
これまで5人であれこれと騒ぎを起こしてきた後の罰を受けている時のようなテンションだった。
「…ふぅ、ま、…やっちまうか」
腕まくりをする伊達に続けてゾロゾロと入ってきた降谷、景光、そして松田も、
素足の冷んやりとした感覚に似たように顔を顰めた。
警察学校に戻った後、
教官室の奥で伊達班の5人に告げられたのは、各人の反省文の提出と男子寮の風呂掃除だった。
鬼塚と永倉が一時不在にしていたとはいえ、鬼塚教場を含め、他の教場の生徒はまだ講義や訓練をしている時間。
放課後になるまでに済ませておくように、という、
普段からは考えられないほど鬼塚の説教は短いものだった。
それは、永倉の言葉の影響だろうかと思いながら、
反省文を書き終えた彼らは、揃って風呂場に移動してきたところというわけだ。
口を閉ざしたまま不機嫌そうにペンをいつまでも動かそうとしなかった松田も、伊達と萩原に促されながら、30分ほどしてとりあえずそれを書き上げていた。
デッキブラシや洗剤を手に取り掃除を始めようとする降谷たちをちらりと見つめる松田。
警察学校に戻ってきてから、彼らは何も言わなかった。
反省文を書いている間も、
“とりあえず、騒ぎを起こしたことについて謝罪の意を書いておけ”と伊達や萩原から言われただけで、
それ以上は何も、話をしなかった。
「…よし！お前たち揃ってるな！しっかり掃除しておくように！！」
そこに、伊達班の様子を見にきた鬼塚が、5人を見回し厳しい声をかけた。
「「「「はい！！！」」」」
彼らの返事の中に、松田の声は無かった。
松田は口をつぐみ、複雑そうな顔をただ浮かべていて。
そして、ちらっと見つめたのは降谷の横顔だった。
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作者名：white12
| 作成日時：2023年2月7日 18時
