耳をつんざく警報音_11 ページ44
『…何の用かと聞いているんですけど』
優也が”知らない男”だと不安げに言っていたこと、
病室から逃げたということだけで、充分だった。
危険な人物では”ない”可能性など考える必要もなくて。
Aは感情を抑えることも忘れて、捻じ上げた男の胸ぐらにさらに力を込めた。
しかし、
体格の違いと力の差はそう簡単に覆るものでもなく、
その直後、男に思い切り掴まれAの腕はするりとそこから外されてしまった。
そして──,
『…っ』
頬に感じる痛みに思わず片目を細めるA。
ずいぶんと分かりやすい展開に、嘲るように男を睨みつけた。
薄暗い空間の中、街灯に照らされた男の手元がギラリと鈍く光った。
その手には、小さなナイフが握られていた。
「桜庭!」
「...桜庭さん!」
男を取り押さえようと駆け寄る松田と降谷だったが、
それより早く、Aは男のナイフをすり抜けるようにもう一度間合いを詰め、
男の腕をねじり上げながら、その身体を地面に押し倒した。
「…は…?」
反転した視界と背中に感じる鈍い衝撃に顔をしかめる男。
その喉元にはねじ上げられた腕の先、
自身が握るナイフの切っ先が向けられていた。
「…っ」
動こうとするも、うまく動けない状況に男が身体をジタバタさせるも、
Aは、それなりの武道経験者だ。
一度、固め技を決めてしまえば、力だけでそう簡単に抜け出せるものではない。
なにより、喉元にナイフが向けられているのだ。
やみくもに暴れるわけにもいかない状況で、足をバタつかせながら苦々しくAを睨みつける男。
『優也にも、これ、...向けたんですか?』
「…」
『3年前の…事件のこと。
貴方、何か知ってるんですか』
ピタリと男の腕を掴んだまま、喉元にナイフを突きつけ、
淡々と、少しずつ語気を強めて問いかけるA。
『あの日、家の近くで…、血の匂いをさせて…私とぶつかったのは、貴方ですか?』
「…なんの、ことだよ」
小さな声で、訝しげに反論する男の声は聞こえないように、
Aはぐっと男の腕に力を込めた。
今日、斉木の兄にぶつけたかった言葉は、
3年前のあの日に目にしたもう1人の男に対する言葉でもある。
瞬時に思考を駆け巡った推察が正しいかなんて、
Aはもう、どうでも良かった。
優也が危ない目に遭ったという、今、目の前で起きたことに、
腹の底に溜まり続けた感情は溢れて止まることはなく、身体が勝手に動いているようだった。
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white12(プロフ) - さゆりさん» 嬉しいコメントをいただきありがとうございます。更新が滞りお待たせしてしまって申し訳ありません。また,体調についてもお気遣い本当にありがとうございます。更新頻度がまちまちで申し訳ない限りですが,引き続きお楽しみ頂けると幸いです。 (2022年8月31日 19時) (レス) id: 5b5db755e5 (このIDを非表示/違反報告)
さゆり - 更新ありがとうございます!これからどうなっていくのかドキドキしています。体調が悪いとおっしゃっていたので、どうぞ無理はしないでお大事にしてください。続きを楽しみにしています! (2022年8月30日 20時) (レス) id: 2b8084ecea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:white12 | 作成日時:2022年8月4日 18時