困ります。_3 ページ30
そして20時すぎ。
「いやぁ、忙しそうだったのに良かったよ。
それに、この間は体調が悪そうだったけど、もう大丈夫?」
『はい。先日はすみませんでした。
もう大丈夫ですので』
「そうそう、この間話した件なんだけど、
実はウチで今度、新しく――」
先日も目の前の男とともに訪れたイタリアンレストランには、
適当に相槌を打ちながら、
小さな笑みを浮かべ、北川と言葉を交わすAの姿があった。
口に運ぶペスカトーレの味は、いまいち分からなかった。
もうすぐクリスマスだ。
どこか色めきだった雰囲気のレストランには似合わない、
わずかに苦い表情を浮かべるA。
「どう?ページのデザインも含めて、全面的に君に担当して貰えたらと思って。
営業になる前は、Webクリエイターとして色々実績を積んでたって聞いてるよ?
その腕も十分活かせると思うけど」
『…そうですね。有難いお話ですが、私の一存では決め兼ねますので』
「まぁ、考えといてよ。
まだ正式な依頼はこれからだけど、
一応、君のところの部長さんには話入れてるしさ。
君にとっては、大きな実績を残せる仕事になるんじゃない?」
そう話す北川に、Aは少しだけ引きつった笑みを返した。
相手の言葉の裏を読むことは、
大人として、社会人として、ビジネスの場では重要なことだ。
そして、それゆえ感じる不快感や気味悪さに、笑みで軽くかわすことも、
きっと重要なこと。
それでも――。
そして、1時間ほどが経ち、
食事を終えたテーブルを前にカバンから財布を取り出すA。
「良いよ良いよ。度々メールしたのは俺の方だし。」
『いえ。そういう訳にはいきません。
弊社と大事な”取引をさせていただいている”のお客様にお支払いいただく訳には――』
取引相手、ということを強調するように、
Aはさらりとカードを取り出すと、店員に会計をお願いした。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年11月29日 22時