時間外の常連客_4 ページ31
(…良かった。サイフォン片付けなくて。)
一度は外したエプロンを再びつけ、
掃除を始めかけたサイフォンでコーヒーを入れ始めるA。
予想通りというべきか、閉店ギリギリ、いや、もう18時を回っている、
閉店時間後に現れた男をちらりと見つめた。
カウンターの隅に座り、何やら携帯を眺めている。
今時珍しい、二つ折りの携帯だ。
あの日から。
この店に謝罪に来た日から、松田は定休日の土曜日を除いて、
ほぼ毎日店に現れていた。
そのほとんどが18時ギリギリ、あるいは今日のように18時を回ってから現れるのだが。
『いつもありがとうございます。…お忙しいんじゃないんですか?』
「いや、10分20分休憩するくらい、文句言われねぇだろ。」
『…無理に来てくれてるなら――』
「そうじゃねぇよ。心配すんな」
“またコーヒー飲みに来てください。”
そう言ったのはAだ。
会話の流れから、
“そうしてくれたら許します。”とも取れるセリフ。
律儀に毎日店に現れる松田に、
Aは少し申し訳ない気持ちになっていた。
実際、客足が急に減って、
そして、その原因とも思われるSNSの書き込みを目にした時は、
悔しさや苛立ちを抑えられなかった。
しかし、わざわざ謝罪を述べに来てくれたことで、Aは、
もう良いかという気持ちになっていた。
あの翌日、松田とともに店に現れた佐藤刑事も、同じく謝罪に来たのだ。
もう、充分だ。
ネガティブな思い出を重ねたくない、という言葉も本心だ。
それは、ネガティブな気持ちを抱え続けていたくない、ということでもあった。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年11月12日 20時