嬉しい言葉 ページ24
店内に残された松田は、
どうしたものかと気まずそうな表情を浮かべていた。
『お待たせしました。
すみません、お忙しいのに引き止めるようなこと言って。』
「…いや。」
眉をひそめながら、促されるようにカップに口をつけると、
その香りのせいか、何とも言えない落ち着く味のせいか、
松田の険しい表情は少し和らいだ。
「…確かに、美味いな。」
『良かった…です』
椅子に腰を下ろした松田を、見下ろすような体勢ではあるのだが、
普段客に向ける笑みより少し柔らかい表情で松田に微笑むと、Aは、カウンターの中へ戻って行った。
そして、しばらく黙ったままコーヒーを飲んでいた松田だったが、
それを飲み終えると、すっと立ち上がり、Aの方へと近づいた。
「…本当に悪かった。」
そして、もう一度謝罪の言葉を述べると、静かに頭を下げる松田。
口調や態度から、失礼な刑事さんだと思っていたAは、
先ほどから素直に申し訳なさそうな表情を浮かべる松田に、
その言葉に、面食らったように目を小さく見開き、
先ほどと同じように”もう、良いですから。”と口にした。
『…良いんです。
さっきの方もそう言ってくれましたが、うちのコーヒーが、スコーンが、美味しいと言ってくれるお客さん、結構いるんです。いた…んです。
今でも来てくれているお客さんも、いますし。』
「…」
『SNSの書き込みで、来なくなっちゃったお客さんもいると思いますけど、
うちのコーヒーやスコーンが好きなお客さんたちは、きっとまた来てくれるって思って…、ますから。
そう、なれば良いなって思ってます。』
「…」
言い聞かせるように、伏せ目がちに微笑みながら話すAの言葉を、
松田は黙って聞いていた。
『…あ、でも。このままお客さんが来なくてお店潰れちゃったら――
貴方を訴えようかな。』
Aは顔を上げて、
松田としっかり視線を合わせると、少し意地悪そうにニッコリ笑った。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年11月12日 20時