Rain【名探偵コナン】 (ページ14)

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閑散とした午後ページ14

『由紀さん、今日はもう上がって良いわよ。』

「…で、でも。」

『奥にスコーン置いてるから。良かったら持って帰って？』

「あ…、ありがとうございます。」

店内にくるりと視線を向け、困ったような顔でAが笑うと、
由紀は小さく頷いてエプロンを外して店の奥のロッカーへ向かった。

誰もいない店内に、Aの小さなため息だけが響いた。
刑事達が来てから、2日が経っていた。

そして、店の奥から出てきた由紀は、
心配そうな目をAに向けた後、”お疲れ様でした！また明日来ますね！”と元気に帰って行った。

由紀は、特に客の多くなる午前10時〜午後15時の時間帯に働いてくれている。
しかし、ここ数日は1日を通して客は4-5人。
めっきり客足が減っているのだ。
由紀には申し訳ないが、経営的に、こんな状態で彼女に時給を支払える余裕はない。
今朝焼いたスコーンも、こうも客が来ないのでは余る一方で。

由紀が店内からいなくなると、
Aはエプロンから取り出したスマホの画面に、伏せ目がちに視線を落とした。

しばらくそうした後、ふっと顔を上げ、

『…新作のスコーンのレシピでも考えようかな。
豆の焙煎、もう少し改良しないと。』

と、小さく笑った。

店の奥から持ってきたのは、1冊の小さめのスケッチブック。
それをカウンターに広げると、鉛筆を手に何やら描き始めた。

『もう少し可愛らしくしたい…かなぁ。苺のチョコチップ…、あ、チョコスプレーでも良いかも。』

ブツブツと呟きながら鉛筆を動かしていると、
ドアの鈴が鳴った。

『…あ、いらっしゃいませ。
お好きな席へ、どうぞ。』

入ってきたのは、1人の男。
先週から何度か来てくれている、どこか色気がある、長髪の男性だ。
Aはスケッチブックを閉じ、注文を取りに向かった。

この男性は、いつも入り口側のテーブルに座るようだ。
といっても、テーブル席3つとカウンターの小さな店なので、あまり選択肢はないのだが。