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｢友達を逃がすために嘘つくなんて……泣かせてくれるねえ｣
背後から聞こえた声は、もうかなり近かった｡
転んで座りこんだ体勢のまま、後ろで嘲笑っているであろう肺炎球菌に顔を向ける｡最後の抵抗とばかりに奴をキッと睨み付けて｡
｢おー怖い怖い｡そんな顔されちゃ、俺だって悲しくなっちまうぜ?｣
嘘つき｡ちっともそんなこと思ってないくせに｡声からも表情からも楽しんでるのバレバレだ｡腹が立つほど愉快なのが伝わってくる｡この野郎、私が免疫系の細胞だったら貴様なんか今すぐ葬ってたからな｡
｢お前、あの赤血球に劣等感持ってんだろ｣
突如放たれた肺炎球菌の言葉に、思わず息が詰まった｡時間すら止まったのかと思うほど、あまりにも痛烈な一撃で｡
｢……な、に、言って｣
｢俺にはな、兄貴がいたんだ｡これがまためちゃくちゃできる奴でよお?だから劣等感抱えてる奴って、なんとなーく分かるんだわ｡似た者同士、仲良くやろうぜ｡なあ?｣
ケラケラと笑われながら言われて、私は何も言えなくなった｡
図星だったから｡
いつも皆の人気者のミヤちゃんに憧れてた｡ずっとずっと羨ましかった｡
でも通行人Aの私は彼女みたいになれっこないって、子供ながらに知っていたし分かっていた｡スポットライトが当たるのはいつだって彼女の方｡だから早々と諦めたんだ｡
だからせめてヒロインであるミヤちゃんをサポートして、守って、ちゃんと彼女が舞台で輝けるようにって｡
あの日からそう思い続けて、自分の汚くて醜い劣等感なんてものは見ないふりしてたのに｡
こいつは私が一生懸命ふたをしていた感情を、あっという間にこじ開けた｡
｢……あんた嫌い｣
やっと口から出たのは、あんまり意味のない罵倒｡どうせこの命はあと少しで奪い取られるんだから、もうちょっと言ってやってもよかったのかな｡
｢……おもしれえよ、お前｡今すぐ殺すのはもったいない気がしてきたなあ……｣
どうやら肺炎球菌に気に入られたらしく、冒頭の通り人質として有効活用されることになった｡いや、何でやねん｡訳分からんわ｡
とにかく最悪なことに変わりはない｡
そういやこいつ、一体どこに向かっているんだろうか｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年9月19日 17時
