犬神と白稚児 ページ30
暗い。
昏い。
冥い。
どこまでも深い、闇。
境内の、その奥。
誰かが、何かにもたれかかって倒れていた。
智｢・・・、重岡くん？！｣
最初に反応したのは神山くん。
俺と照史を押しのけて、その子に近寄ろうとする。
淳｢ちょっと待った！ 落ち着け！｣
智｢無理です！ 落ち着けません！｣
その手を掴んで、どうにか引き寄せる。
せやけど神山くんは、それを振りほどこうと必死にもがく。
智｢あの子、オレのクラスメイトなんです！ 10日前に行方不明になってた！｣
淳｢分かった、分かったから落ち着けって・・・！｣
強い。
振りほどかれそうや。
照｢・・・・・・ごめんな。｣
手こずる俺を見かねてか、照史が神山くんの前に立つ。
そして手を、顔の前に翳して・・・
智｢──────────・・・、｣
スッと、彼から全身のチカラが抜けた。
その顔はぼんやりとしていて、目の焦点も合ってへん。
淳｢・・・何したん？｣
照｢幻術。こうでもせんと、神山くん大人しくならへんやろうから。｣
淳｢そっか・・・｣
大きく息を吐く。
神山くんが言ってたこと。
｢あの子は、オレのクラスメイト｣。
10日程前に、行方不明になった。
淳｢あの子、やっぱり死んでるんかな？｣
照｢十中八九ね。｣
淳｢そっか・・・｣
10日。
行方不明になった日数分、此処に閉じ込められていたとしたら。
いや、たとえそれが昨日からの話でも。
この呪いの中心におって、耐えられるワケがない。
淳｢・・・とにかく、あの子を、外に運んであげようか。｣
ゆっくりと、男の子──────重岡くんに、右手を伸ばす。
俺は、忘れていた。
照史が、境内に入る前に言った言葉を。
照｢危ない淳太くん！｣
照史の声が聞こえた時には、もう遅かった。
伸ばした右腕。
その手首に、とてつもない衝撃が走った。
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