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「…やから、俺いらんて言わんかった?」 ページ5

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Aは、愛情をはき違えてる。



「はい、今月分」



目の前に万札が数枚。



「…やから、俺いらんて言わんかった?」



それを聞いて、Aはほんまに不思議そうな顔をする。

これは毎月繰り返されるやりとりで、そんでAは言うんや。

「どうしていらないの?」

って。


「必要ないねんて」


食費はAが出してくれる。

服は月に何回か高級店に連れてってくれて、よう分からんけど勧められるまま色々試着したら


『…だいき、似合うの多すぎ。決められないじゃん』


とか言うて、全部買うてくれる。

靴やって、アクセサリーやって、そう。

俺は出掛けへんし、出掛けても照史くんの店かともひろと会うくらい。

やから、交際費いうてもほんま微々たるもん。

せやのに、なんでこない毎月渡してくんねん。


「でも、私があげたいから」


「けど、使わへんからあっても困んねん」


「知らない。いいからもらって」


万札の押し付け合いをして、もう言うても分からへんやろから腕を引いた。

床にひらひら万札が舞い落ちる。


「…なに」


これでも彼女、めっちゃ驚いてもうてんねん。


「Aは、なんで俺を買うてくれたか覚えてる?」


「…覚えてる、よ」


「やったら、俺の言いたいこと分かってや」


ゆっくり言い聞かすような言葉に、Aが口を閉ざす。

Aが俺を買うた理由。

それは、両親への反抗と愛情欲求。

Aの両親は仕事が忙しくて、家におるどころか日本におることも珍しい。

そんな両親が愛する娘に、一緒におれへん代わりに与えたもの。

それが有り余るほどの“お小遣い”やった。

けど、使うあてもなく貯まり続ける“お小遣い”は、Aの寂しさを加速させるだけ。

広過ぎる家で嫌になるほど長い時間を、一人きりで毎日、毎日。

そんな時、散歩の途中に店の前を通りかかった。


『分かりました、買います。支払いはこれで』


そう言うてAは、雑にカードを差し出した。

そのことは、照史くんが時々、思い出話として語ってくれる。

一括で支払った客は、後にも先にも彼女だけや、と。

あの時、俺はきっと、“お小遣い”を一気に使うことができるツールで。

Aは、“お小遣い”を無駄に使うことで親に反抗した。

同時に、なにか大きな変化を示すことで、親が反応してくれることを期待した。

少しでも関心を向けてほしい、連絡が来てほしい。

そんな、二極分化でアンビバレントな親への意思表示。




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こか - ドールの読みました!いつかいつかとしげちゃんの更新まってます。 (2019年7月10日 1時) (レス) id: be3c0702e8 (このIDを非表示/違反報告)
春果 - しげちゃんかわいいですね〜!また、楽しみにしてます★ (2017年7月18日 20時) (レス) id: 997f1647f4 (このIDを非表示/違反報告)
青衣(プロフ) - 更新うれしいです、ゆっくりでいいのでりゅうせい編も楽しみに待ってます、素敵な作品と出会えて嬉しいです。 (2017年7月14日 23時) (レス) id: 7b82a2e89b (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - このシリーズ大好きです。更新楽しみにしてます。 (2017年7月9日 0時) (レス) id: cf7f28aebe (このIDを非表示/違反報告)
はるな(プロフ) - プランツドールシリーズ、今までに読んだ作品の中で一番好きです。どのドールのお話も大好きで、思わず感情移入して読んでて切なくなったり嬉しくなったりしてます。更新楽しみにしてます (2016年9月13日 2時) (レス) id: c25a20d502 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:茉莉花 | 作成日時:2016年4月23日 11時

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