プランツ・ドール Tomohiro. K

「よし、出発進行！」 ページ15

.








「A…？」



「あ、ごめん。よし、行くか」



初めての車。

初めてのチャイルドシート。

初めてのお出かけ。

ともひろは一つ一つに目を輝かせて、これなあに？って私に聞いてくる。



「よし、出発進行！」



「しんこーっ！」



きゃっきゃはしゃいで、可愛い。

窓の外の雪景色見つめて、



「みて！まっしろ！」



って指差してみたり、



「あ！なんかおる！」



って大きな声出してみたり。

いつも大人しいともひろが、こんなに賑やかなのも珍しくて、思わずにやける。

本当に連れてきてよかった。



「あれはね、シカさん」



「し、か？」



「そうそう。美味しいんだよ」



「しかさん、たべるん…？」



ああ、そうか。

私ってば、さすがに、美味しいんだよ、はないでしょ。

食育は早すぎる。

ともひろは、食べられないんだし。



「ごめんごめん。シカさんはね、足が速いの」



「どんくらい？ともより、はやい？」



「うん、ものすごーく速いの！私より速くて、車くらい！」



うーん、それはちょっと嘘かもしれない。笑



「しかさん、かっこええ！」



それから、雪面をかけるシカに、一生懸命手を振ってる。

はあ、可愛い。



「しかさん、いってもうた…」



「行っちゃったねー」



でも、悲しがることないぞ、ともひろ。

私は初めて、ここが田舎で良かったと思った。

シカなんて序の口。

キツネだろうがタヌキだろうが、簡単に見られる。

あまりに普通過ぎて、もはや感動すらしない。

それを、こんなに純粋に喜んでくれるだなんて。

さあこい、野生動物ども！

ともひろの可愛い笑顔のために！







.

「こんこんー」→←「格好良い服、買いに行こ」

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す