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「離婚してほしい」
あの日、俺は確かにそう言った。
妻はどうして？と泣きそうな顔で聞いてきた。
その時、本当のことを言えばよかったんだ。
好きな人ができた。お前にはもう限界だ。
だから別れようって。
でも、言えなかった。
なぜ、言えなかったか。
自分でさえよくわからない。
俺はまだ、離婚をしていない。
取って付けたように数年に渡り行為がなかったこと、促しても答えようとしてくれなかったことを申し出た。
そんなことで離婚なんかできるわけない、と妻は言った。
そして今現在、まだ離婚の調停中だ。
会社も本当は一身上の都合で辞めたわけではない。
少し考えればわかることだ。
会社も辞めて家庭を失った人間が、どうやったら都心のマンションの最上階に住める？
俺は引き抜きにあったのだ。
以前の会社よりも待遇が良く、給料も高い企業に。
これでわかっただろう。
俺が彼のためにやってあげたことなんて、ベッドのシーツを取り替えることくらいだった。
そう簡単に人は良い人間にはなれない。
智くんはきっと優しいから、俺が今までやってきたことにも目を瞑ってくれている。
思い返せば傷付ける行動しかしていなかったのに。
だけど、この気持ちは本物だった。
隣で眠るあどけない表情がずっと手に入れたかったもの。
こんな自分にも多少なりとも愛情があったんだって、初めて実感した。
俺は起こさないようにベッドを抜け、開いたままだった窓から外のバルコニーへ出た。
月は少しずつ雲に隠れていって、空が灰色に染まっていく。
そういえば、明日の朝は雨なんだっけ。
柵に肘を置き、煙草に火を付けた。
どうしてここまで執着してしまうのか。
彼には人を惹き付ける不思議な力がある。
満ちた海の底から引き上げられるような、ものすごい力が。
何度離れようと思っても、あの笑顔が見たいと思ってしまう。
柔らかい肌に触れて、赤らんだ顔で見上げられたいと望んでしまう。
なのに、口から出る言葉は嘘ばかり。
こんな俺を許してほしい。
俺はあなたのように真っ白で透明な存在にはなれない。
ずるくて、自分勝手で、愛しているはずなのに。
腐ったプライドが邪魔をして、素直に愛することができない。
それでも、こんなにも好きだって強い気持ちを持ったのもあなたにだけ。
俺の吐いた煙は、変わらず青い夜空と、灰色の雲に混じって澱んだ紫色に変化していく。
窓の奥に見える寝顔を見つめながら、頬に一粒雫がこぼれ落ちていった。
つづく？
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京(プロフ) - 碧央。さん» 碧央さん、ありがとうございます！詳細な感想までいただけて…本当に本当に嬉しいです！！まだまだ書き続けたいと思いますので、今しばらくお待ちいただければと思います！ (2021年1月24日 1時) (
レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - ゆうきさん» ゆうきさん、ありがとうございます！！細かく読んでいただけて大変嬉しく思います。続編はもう少々お待ちくださいませ！ (2021年1月24日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - butazch715413さん» ありがとうございます、そう仰っていただけて本当に励みになります！続編は書く方向で進めますのでもうしばらくお待ちくださいませ。 (2021年1月24日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
碧央。(プロフ) - 初めまして。毎日読みに来るのが楽しみで続きが気になって仕方ないほどにとても好きな物語でした。切なく胸が痛くなる場面や、ドキドキして高鳴り、にやけてしまう程ラブラブな場面、とても楽しませていただきました！続編読みたいです！お願いします！ (2021年1月23日 23時) (レス) id: c1ed4221ec (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - 京さん、初めまして。京さんの描く色っぽくて魅力たっぷりな大野さんが大好きです。お話の更新をいつも心待ちにしておりました。このお話の続編、是非是非お願い致します！楽しみにしております！ (2021年1月22日 11時) (レス) id: 096605d473 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：京
| 作成日時：2021年1月3日 1時
