Eight ページ9
一般細胞が女性であったことが分かった後も、宣言通り記憶細胞は一般細胞を訪ねた｡
一般細胞が記憶細胞のやってくる時間をおおよそ把握してからは、記憶細胞が外から声をかけることはなくなった｡
はっきりと約束していないにもかかわらず、記憶細胞が通りかかると、一般細胞はいつもベランダにもたれかかっていた｡
「記憶細胞さんの周りには面白いことがいっぱいあるんですね」
一般細胞はまるで面白さや楽しさが抑えきれないかのように、クスクスと笑い声があふれ出す｡
記憶細胞はそんな彼女にあきれたような視線をくれた｡もちろん心の底からあきれている訳ではないし、一般細胞もそのことをちゃんと知っていた｡
「そう言う君こそ、毎度幸せそうな話題ばかりだよ」
「えー、そうですかねえ」
「いつも笑顔じゃないか」
一瞬、一般細胞が言葉に詰まった｡だが記憶細胞が気づくことはなかった｡
「そういえば、記憶細胞さんって私のこと、君って呼ぶんですね」
話題ががらりと変わったことに少し戸惑いを覚えつつ、記憶細胞は答えを返した｡
「そうだな｡識別番号とかあったらそれで呼ぶんだけど」
一般細胞達には識別番号が割り当てられていない｡あるのかもしれないが、一般細胞は自分の番号を知らなかった｡
「何て呼べばいい?やっぱり嬢ちゃん? 」
「やめてください、赤血球の生意気な坊やと同じ呼び方は嫌です」
嬢ちゃんと聞いた途端に、拒否する一般細胞｡
そこまで嫌だと知らずにいた記憶細胞は驚いた｡
「君でもそういうこと言うんだ」
「そりゃそうですよ｡嫌なものは嫌ですから」
一般細胞の新たな一面を知り、記憶細胞はなんとなく得をしたような気分になった｡
「じゃあどうしようか｡他に何か呼ばれているものがあればそう呼ぶけど」
「うーん、特にはないですねえ」
悩んでいた一般細胞はふと何か閃いたようで、記憶細胞を見る｡
「記憶細胞さんが私に名前をつけてください! 」
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
