Bonus-third ページ47
｢はーい｣
そう返事をして彼女はいつもドアを開ける｡
｢あ、お疲れ様です! ｣
ハンコを押してもらい、酸素を渡して二酸化炭素を受け取る｡これが俺の仕事だ｡
でも彼女に届ける時は世間話をしながら行うことにしている｡
新人の頃は黙ってこなしていたのだが、彼女が話しかけてくるためいつの間にかそれが習慣になっていた｡
｢嬢ちゃん、恋人ができたんだって? ｣
いつもはその場で何となく話すのだが、今日はもう話題を決めていた｡
彼女はハンコを落としかけたのをしっかりキャッチすると、目を大きく開いて俺を見た｡
……そのまま、俺だけを見ていてくれたらいいのに｡
｢な、何で知って｣
｢噂になってますから｣
ヒャーとか言いながら赤く染まったその顔を彼女は両手で隠した｡うまく隠せていないけど｡
ああ、可愛いな｡
何度も思った｡数えきれないほどに｡
俺は彼女に惚れている｡奴よりもずっと前から｡
俺の方が彼女の可愛いところも優しいところも知っている｡
今ならまだ間に合うかな?
ここで俺が知る限りの彼女の魅力と共に想いを伝えたら、彼女は振り向いてくれるんじゃないか｡
｢あの、｣
彼女の名前が窓の方から聞こえた｡
……だめじゃん｡もう遅い｡
彼女の顔を見たら、言えるはずがない｡
あんなに嬉しそうで、楽しそうで、幸せそうな表情を向けるのはこの世界じゃたった1人なんだから｡
今更俺は想いを告げたところで、彼女は困惑するだけだろう｡
俺の恋は終わったんだ｡
｢じゃ、そろそろ｣
｢Aさん｣
でも、これだけは言わせて｡
｢幸せになってください｣
彼女は俺のおかしな態度を笑うかもしれない｡そう思った｡
でも予想は思いっきり外れた｡
｢ありがとうございます｣
彼女はふんわりと笑ってくれた｡
これで十分だ｡
ドアが閉まる隙間から彼女がベランダに走っていくのが見えて、完敗だと思った｡
｢先輩、早く行きましょー｣
グルコースを食べ終えた後輩が俺に手を振っている｡
よし｡
仕事だ仕事!
ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ
なんと!
次回作にて!
Bonusシリーズに出てきた赤血球コンビの恋物語が!
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
