Thirty-eight ページ40
ワンワン泣いていたAも、記憶細胞があやすように背中をさすってくれたおかげでようやく泣きやんだ｡一緒にいた白血球は空気を読んで立ち去ってくれたらしい｡
｢どうやって逃げたんだ? ｣
体勢を崩さずに記憶細胞が尋ねた｡
｢逃げられた訳じゃないんです｡鍵も閉めてあったせいで、助けにきてくれた白血球さんも入ってこれなくて｡本当に死ぬ寸前でした｣
Aも気にせず答えた｡
｢じゃあ、どうやって｣
｢たまたま足下に抗原に関する本が落ちてて、それをウイルスの頭に叩きつけたんです｡それでウイルスが怯んでる間に鍵を開けて、白血球さんに駆除してもらいました｣
｢そうか、頑張ったな｣
話が一段落して、2人の間を沈黙が通りすぎていく｡
その沈黙を破ったのは、珍しく記憶細胞であった｡
「A」
「なんですか、記憶さ、わっ」
記憶細胞の呼びかけに顔を上げようとしたAであったが、彼によってそれは阻止された｡
そして今、自分がどんな状態にあるかが分かってAは顔を染めた｡
「このままで聞いてくれないか」
Aは抱きしめられていることでうまく話せないため、コクンと頷いた｡
「俺は白血球みたいにすぐ駆けつけられる訳じゃないし、キラーTみたいに素手で抗原を倒せない｡それに現役の頃みたいに抗体を作って攻撃することもできない｡でもAのことを守りたい気持ちは誰にも負けない」
Aは鼓動が速くなるのが自分でも分かった｡記憶細胞の鼓動が速いのも分かってしまった｡
「こんな時に言うことじゃないって分かってる｡でも言わせてほしい」
いくら鈍感なAでも次に何を言われるかうっすらと察しがついた｡
「俺はAが好きだ」
ブワッと熱という熱がAの顔に集まった｡気がした｡
記憶さんが、私を?
察しがついていたはずなのに、うまく理解ができなかった｡
言葉を発することすらできない｡
記憶細胞はそんな彼女にかまわず続けた｡
「今、答えてくれなくていい｡しばらくしたら、返事を聞きにくる」
記憶細胞は言うだけ言うと、Aを腕の中から解放した｡
Aが聞き返そうとした時、もう近くに彼はいなかった｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
