Thirty-five ページ37
「記憶さん、ウイルスが」
「分かった」
黙々と仕事をしていた記憶細胞は、B細胞の呼びかけで立ち上がった｡
記憶細胞が珍しくすんなりと思い出せた抗原の抗体を手早く作ったB細胞｡
記憶細胞はB細胞の準備の間、現場の地図を眺めた｡
「記憶さん、準備OKっす｡ってあれ……? 」
「何をしている、B細胞!急げ! 」
見当たらないと思っていたら、記憶細胞は既に走り出していた｡
B細胞は慌てて後を追う｡
「記憶さん、どうしたんです?俺、地図見てないんですけど」
「場所ならもう分かってる! 」
B細胞は記憶細胞の慌て具合に驚いていた｡
記憶細胞は普段から慌てたり叫んだりとオーバーリアクションをとるが、それとは何か違っていた｡彼はとてつもなく焦っていた｡
「記憶さん、何でそんなに焦ってるんすか!? 」
とうとうB細胞は記憶細胞に尋ねた｡
記憶細胞はスピードを落とすことなく、その問いに答えた｡
「地図を見てすぐにどこか分かった｡ウイルスの襲撃場所は――」
Aは機嫌がよかった｡鼻唄なんかを口ずさみながら、細胞周期をチェックしていた｡
今日も細胞くんに異常なし｡もうすぐ装置から出られる彼のためにも、Aは気を抜く訳にはいかなかった｡
本当に気分がいい｡
お出かけしたいな、記憶さんも誘って｡どこに行こうかな｡
めちゃくちゃ気が抜けているが、まあそこはご愛嬌｡
るんるん気分でカーテンを開け、そしてすぐさま閉めた｡
さっきと打って変わってAの顔は真っ青だった｡
窓の鍵がかかっているか確かめて、玄関の鍵も閉める｡カーテンの間の僅かな隙間も許さないとばかりに入念に重ねた｡
Aがこんなに慌てている理由｡
それはウイルス感染細胞が外を徘徊しているからである｡
ブルブルと震える体を押さえ込むようにAは肩を抱いた｡
大丈夫、大丈夫｡
鍵を閉めてじっとしていれば、私達に被害は及ばない｡
落ち着け｡落ちつけ｡
外では今頃白血球達が駆け回っているに違いない｡きっとすぐに治まる｡
Aはひたすら前向きなことを考えた｡そうしないとあの時の恐怖が蘇ってしまうから｡
背後でガシャンと何かが割れた音がした｡
Aは感じることなどあり得ないはずの風に振り返った｡
そこにはおかしな細胞が立っていた｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
