Thirty ページ32
記憶細胞は調子に乗って、嫉妬についてさらに述べてしまった｡
「他にも嫉妬を抱く時があるらしいぞ｡仕事で他の人が自分より褒められてる時とか、あとは好きな人が自分と同性の者と仲がよいのを見た時と、か……? 」
自分で話していて、記憶細胞はおや?と思った｡
歩き出したAの後を追うように記憶細胞も歩を進めるが、思考の波に溺れたままだ｡一度考えを整理してみることにした｡
Aはマスト細胞に嫉妬してしまった｡それで罪悪感を感じた｡そこまではOK｡
嫉妬の理由はマスト細胞が自分より綺麗で羨ましいとAが思ったから｡
でもAはあまり自分の見た目に興味を持たないとずっと昔にこぼしていたような｡
あ、もしかしてここが矛盾していて、自分の中で引っかかっているのか?
ならば他に嫉妬の原因があるはずだ｡
自分はさっきどんな例を出したっけ｡
他人が自分より褒められている場合｡それから想い人が他人と仲がよいところを目撃した場合｡
褒める場面はなかった｡すなわち後者だ｡
……想い人?
あそこにいた男は記憶細胞とB細胞だけだった｡どちらかがAが胸を焦がす相手だということである｡
スムーズに進んでいるように見える記憶細胞の考察だが、ツッコミどころが多すぎる｡しかしこれはあくまで記憶細胞の頭の中で起こっていること｡たとえどれほどツッコミ要員がこの場にいたとしても、何人たりとも記憶細胞にツッコミを入れることは不可能なのだ｡
記憶細胞の先を行っていたAはいつも配達してくれる赤血球がいたらしく、軽くしゃべっている｡
記憶細胞の中でモヤモヤした何かが生まれた｡
Aが記憶細胞の方を指さしてニコニコと笑う｡
先ほどのモヤモヤは残っていたが、自分の話題で笑っているAを見て嬉しくなった｡
「ああ、そうか」
記憶細胞は呟く｡
俺は今、あの赤血球に嫉妬しているのか｡
その原因は言うまでもなく……｡
「記憶さん、次はあっちに行ってみたいです! 」
Aは記憶細胞に駆け寄り、大きな木を指した｡
ああ、とうつむいたまま返事をした彼の手をとって走り出した｡
「早く行きましょ! 」
「……うん」
Aは前を見ているため、記憶細胞の顔が真っ赤に染まっていることを知らなかった｡
俺はAが好きなんだ｡
彼がそのことを自覚するのは、B細胞とマスト細胞が予想していたよりずっとずっと早かった｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
