Thirty-six ページ38
「う、そ、なん、で」
Aは恐怖のあまり、思考力が低下していた｡
やだ、窓閉めたのに、何でウイルスが、ここにいるの?
感染細胞が窓を割って入ってきた｡そんな当たり前のことすら分からない｡
Aは泣きそうだった｡
助けて助けて助けて……!
Aは感染細胞から目が離せなかった｡だからこそ虚ろな目が何を映しているか、気づいてしまった｡
「だ、め、やめて」
両手を大きく広げて震える足でAは分裂装置を庇った｡
感染細胞はここを乗っ取るため、分裂装置を狙っていたのだ｡
「コピー、くんには、指一本、触れさせない」
本当は怖くて仕方がないし、今すぐこの場から逃げ出したくてたまらない｡
けれどAは装置の前を立ち退こうとはしなかった｡
今は私しかコピーくんを守れない｡
私がコピーくんを守らなきゃ｡
私みたいな細胞を、もう1人も生み出さないためにも｡
「おい、大丈夫か!? 」
玄関の方からドンドンと強くドアを叩く音が聞こえた｡ピンポンというレセプター音も聞こえるから、おそらく白血球がウイルスの侵入に気づいて来てくれたのだろう｡
「助けて! 」
思ったよりも大きな声が出た｡白血球にも届いたらしい｡
「ここを開けてくれ! 」
Aはハッとした｡そして自分で自分を追いつめていることを知った｡
ドアの鍵を開ければ白血球が感染細胞をやっつけてくれるだろう｡しかしその僅かな間、コピーくんは危険に曝されてしまう｡感染細胞はもう近くまで来てしまっているのだ｡
だがドアを開けなかったなら、2人ともジ･エンドだ｡
「何をしている!?早くここを開けるんだ! 」
ごめんなさい、白血球さん!無理です!
そう叫びたかったが、もうさっきの大声で力を使い果たしたみたいだった｡
奇声を上げて飛びかかってきた感染細胞がAの瞳に映る｡
……ああ、もうだめだ｡
視線を床に落としながら、記憶細胞のことがAの頭をよぎっていた｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
