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「たっだいまー」


やや血を流しながらレティが帰ってくると、「どこやられたんだ」とアバッキオが問いかけた。


「や、これは返り血」


すると、「膝の方は?」とフーゴが言った。転んだ時のことである。


「…あはは」


「…帰ったら真っ先に消毒するぞ」


「はーい」


にこにこと恥ずかしそうに笑う彼女に、先程までの冷徹な表情は見る影もなかった。





「いッ…!」


「あ、ここも怪我してるな」


「フーゴって治療上手だねー…」


後々ホッチキスで止めてガムテープでグルグル巻き、という手段をとる人間にそんなことをレティは言い、「私も応急処置くらいは上手くなろうかな」と思った。


「…レティは、怖くないのか?」


「何が?」


「こうやって、ギャングの世界で男と同じように生きることだ」


レティは何も答えない。ただ淡々と治療をするフーゴを見つめるだけだ。


「それとも、恐怖を乗り越えてでも手にしたいものがあるのか?」


「……フーゴ」


レティは少しの間黙っていたが、やがてーー挨拶程度の軽い口付けを、フーゴの頬にした。


「女の子は、少し秘密があった方が可愛いでしょ?」


「!僕は真剣に…」


「私もさ、この世界で生きることに対してはみんなと同じくらいの覚悟をしてる」


レティの瞳は宙を見た。そこに何が映っているのか分からない。


「だから私は…人の命を奪うことに何の躊躇もしない。ただし、人殺しをした罪は一生背負っていくつもり」


「レティ…それは、ギャングの世界では余りにも辛い生き方だよ。この世界にいるからには、何人もの人を殺すことになる。例え悪人だったとしても、君は自分が殺めてきた分の罪を背負うのか?」


「背負うよ」


彼女は言い切った。まるで、悪人だとしても人間に変わりはない、と言うように。


「例え、反吐が出るほどの悪の根源そのもののような奴を殺したとしても…私はそれを罪として背負う」


そこには"凄味"と"覚悟"があった。慈悲などではなかった。神が全ての人間を平等に愛するような、慈愛の精神などではなかった。


「……君は強いな」


フーゴはそんな彼女の精神を、美しく、同時に強いと痛感した。


それはきっと、今の彼には無いものだから。

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作者名: | 作成日時:2019年4月28日 19時

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