at close range (ページ42)

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a mirage 2【T】ページ42

休み時間、トイレから戻ると玉森くんの席には彼女が座っていて、私を見るなり玉森くんの所在を聞いてきた。

「分からない…、けど、私がトイレに行く前まではちゃんといたよ」

今日も私の一日は彼の「花村さんおはよう」で始まっている。

顎を固め不満をあらわにする彼女のもとへ、玉森くんの親友である宮田くんが寄ってきた。

「タマ待ち？」

「行くねって言ったのに」

「タマは自由だからねぇ」

「自由過ぎ！私、裕太がいつ起きていつ寝ていつどこで何してんのかほぼ知らないんだよ？自信なくすー」

挨拶は人して基本だと豪語していた玉森くんは、彼女に何も挨拶をしていなかった。

「早く座れー」

授業が始まってしばらくした時、玉森くんが教室へ戻ってきた。

「花村さんただいま」

「玉森くん、…おかえり」

それからしばらくして、彼女が玉森くんに会いにくることはなくなった。

.

もうすぐ三学期も終わる。

席替えどころか、もう卒業だ。

学期始めのHRで席替えをした。

玉森くんとは対角線上の端と端で、その日を境にあの不可解な挨拶は終わりを迎えた。

毎日律儀に挨拶をしてくれていた玉森くんは、どんどん小さくなって、粒のような思い出になるだろう。

明日から自由登校が始まる日、久しぶりに下駄箱で玉森くんに会った。

「あ、」

「玉森くん…、あのっ、」

「何？」

「あ、…ううん、何でもない」

久しぶりに「玉森くんばいばい」って言おうとしたんじゃない。

「玉森くんが好き」って、言いそうになった。

私、ずっと、玉森くんが好きだったんだ。

あと二回しか会えないのに

長い片想いにとうとう気づいてしまった。

「ばいばい」が言えない。

だって、今日は、本当のばいばいになってしまう。

すると玉森くんは、「あー、なるほどね」なんて笑いながら額に手を当てた。

「不思議だったんだ、なんで俺、花村さんに挨拶してんだろう？って」

玉森くんが不思議なら私はもっと不思議だ。

「でもやっとわかった」

「わかったの？」

「うん、わかっちゃった」

「何？」

「今花村さんが何か言いかけたとき、その先を知りたいと思った。俺に何を言いかけたのか、花村さんは何を伝えてくれるのか」

陽の光は玉森くんの表情を隠したけど、わかっちゃった想いまでは隠せなかったみたい。

「俺、花村さんが好きなんだと思う」

【end】